2014年1月11日土曜日

「殯(もがり)の森」を観て

 この映画については、私の貧弱な文章能力では表現しきれないので、NHKエンタープライズ発売のDVDに付属する解説書に従って、この映画の概略を説明しておきます。
 映画の舞台は奈良県東部の山間地で、旧家を改築したグループホームです。ここでは軽度の認知症を患った人たちが、介護スタッフとともに共同生活をしています。その中の一人、しげき(本名も同じ)30数年前の妻の死亡を受け入れられないでいます。ここに新任の介護師としてやってきた真千子(本名と同じ)も、事故で子供をなくし、夫とも別れ、心を閉ざして生きていました。あるとき、しげきを怒らせて自信を失っていた真千子を、主任が「こうしゃなあかんこと、ないから」と励まします。ある日、二人はしげきの妻が眠る森へ墓参りに出かけますが、道に迷ってしまいます。「こうして日も暮れ、道に迷った二人を待ち受けていたのは、森の洗礼ともいうべき、さまざまな出来事だった……。」
 この映画の監督は河瀬直美で、自分の故郷である奈良県を舞台に、この映画を作りました。彼女の映画は、すでに10年ほど前から注目を集めていましたが、2007年カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを獲得しました。なお、映画制作にあたっては、国内で協力者が見つからなかったので、フランスとの合作映画となりました。
 「生きること」と「死ぬこと」は決してかけ離れたことではなく、「手を伸ばせば、すぐそこにある」ということを、この映画は語っているように思います。河瀬直美は、この映画を制作した意図を次のように語っています。「それは、ものごころついたころ、昨日まで元気に話していた近所のおじいさんが亡くなったとき、その方のなきがらの前で呆然とし、どうしておじいさんは動かないのかなと、不思議に思った記憶に始まります。……どうしたら遺されるもの、逝ってしまう者の間にある結び目のようなあわいを描く物語に昇華できるだろうと考えました。」
 最後に受賞式での彼女のスピーチの一部を引用します。
「目に見えないもの-誰かの想いとか、光とか、風とか、亡くなった人の面影とか-私たちはそういうものに心の支えを見つけたときに、たったひとりでも立っていられる、そんな生き物なのだと思います。そんな思いを込めてつくったこの映画を評価してくれてありがとう。この世界はすばらしいと思います。」
* 「殯(もがり)」とは「敬う人の死を悲しみ、偲ぶこと、または、その場所」だそうです。

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