2014年1月11日土曜日

「太王四神記」を観て

 韓国のテレビ・ドラマ「太王四神記」は、ペ・ヨンジュン(通称「ヨン様」)が出演していたこともあって、日本でも評判になりました。私の妻も「ヨン様」のファンなので、このドラマを見ていたのですが、話が複雑なため、大抵居眠りをしていました。私はこのドラマに関心がなかったのですが、妻に付き合って時々見ているうちに、目を見張りました。なんと広開土王(好太王)の物語だったのです。
 広開土王(好太王)とは、4世紀末から5世紀初めにかけて高句麗の王だった人物で、高句麗の全盛期を築いた人です。そんなことよりも、彼の業績を記した有名な碑文「広開土王碑文」が残っており、これはほんどの日本史や世界史の教科書に載ってます。そこには日本()との関係も記されており、その内容をめぐって、一時大論争が展開されました。




 このドラマは神話の世界と深く関係していますが、私は朝鮮・韓国の神話についてほとんど知りませんでした。もちろん韓国の神話には色々なバージョンがあるようですが、このドラマで語られている神話は、次のようです。
 
昔々、虎族の国があり、人々を苦しめていました。この虎族の指導者が、カジンという名前の巫女で、火を操る力をもっていました。こうした中で、神の子ファヌン(ヨン様)が地上に降り、理想の国チュシン(神市)を建てます。しかし虎族による人々への攻撃は続き、熊族の女戦士セオが勇敢に戦っていました。ファヌンは彼女を愛するようになり、カジンから火の力を奪ってセオに与えます。この力が朱雀と呼ばれるものです。そしてセオは、ファヌンの子を身篭ります。一方、カジンはファヌンを愛するようになりますが、ファヌンはセオを愛していたため、嫉妬したカジンはセオの子を殺そうとします。セオはカジンと闘いますが、怒りのため火をコントロールできなくなり、朱雀が暴走し、世界は火の海と化します。やむなくファヌンはセオを殺し、ファヌンの愛を得られなかったカジンも自殺します。結局、ファヌンは、いつかチュシンの王が復活することを予言し、その日のために四つの神器を残して天に帰ります。
 そして2千年の歳月が流れ、375年にチュシンの王の復活を示す星が輝き、やがてチュシンの王となるべく運命づけられた人物が誕生します。これがタムドク(ヨン様)、つまり後の広開土王です。一方、同じ頃カジンの生まれ変わりであるキハと、セオの生まれ変わりであるスジニが誕生します。このタムドク・キハ・スジニや、チュシンの復活を願う人々、さらに虎族の復活を願う人々が、それぞれ2千年前の宿命を背負って、さまざまなドラマを展開していくことになります。こうして、24回におよぶ「太王四神記」が始まります。
 このドラマには悪人はいません。それぞれの人々が、自分たちの悲しい宿命を背負い、それぞれがそれぞれの立場で必死に闘っているのです。そして、ドラマの途中で繰り返し神話との関係が語られるのですが、これを理解するのは容易ではありません。妻が居眠りしてしまったのも、当然です。私は、最終回を見終わって、初めて神話とストーリーとの関係が分かり、感動しました。その意味においても、このドラマは大変よくできていると思います。最後にタムドクは、自らの手で神器を破壊し、「天の力」に頼ることを止め、人間の力を信じることを決意します。つまり、ドラマは神話の世界から史実の世界に移っていくのです。
 
ちなみに、史実としての広開土王(好太王)は、374(ドラマでは375年となっています)に生まれ、391年に王となり(1617)412年に39歳で死亡します。この間に彼は領土を広げ、国内では善政を行い、彼の死後、彼の業績について碑文が書き残されました。韓国・朝鮮にとって、彼は伝説的な名君なのです。なお、広開土王碑文は1880(明治13)に発見され、高さ6.3メートル、幅1.5メートルの碑に、1802文字(漢文)が刻まれています。

























 ところで、高句麗を建てた人々は、現在の中国東北地方を本拠地として、そこから朝鮮半島を支配した国です。したがって高句麗は中国の国なのか、それとも朝鮮の国なのか、という問題が発生します。このドラマの舞台となったクンネ(国内)城は、現在では中国領内にありますし、広開土王碑文が発見されたのも、現在の中国領です。しかし、中国にとって高句麗は中国に逆らった国であり、隋から唐にかけて中国は何度も高句麗に大軍を派遣して、これを滅ぼしました。これに対して朝鮮では、高句麗は理想の国家の一つです。10世紀に朝鮮で高麗という国が生まれます。高句麗は後に高麗とも呼ばれるようになりますので、10世紀に建国された高麗は高句麗を理想の国としてとして建国された国なのです。
 この高麗の時代に、「三国志」「三國遺事」といった歴史が編纂され、その中で神話や広開土王(好太王)について述べられており、彼は朝鮮の伝説的な大王として扱われています。この高麗の時代には、その後の朝鮮の伝統となるものが沢山生み出されます。中でも有名なものが高麗青磁と呼ばれる磁器で、世界中から珍重され、英語の朝鮮名であるKoreaは、この高麗に由来しています。したがって、朝鮮の人々にとって高句麗は朝鮮の国なのです。要するに、高句麗が現在のどの国に属していたのかということは、どうでもよいことであり、そうした歴史的な事実があったということが、大切なことなのだと思います。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿