2018年にインドで制作された映画で、16世紀に生み出された叙事詩「パドマーワト」を映画化したものです。映画は莫大な資金を投じた160分を超える大作で、使用される言語は、インドの公用語であるヒンディー語と、パキスタンの公用語であるウルドゥー語です。
インドでは、仏教が隆盛した古代インドは7世紀には衰退し、各地にヒンドゥー教の国が建設されるようになります。さらに7世紀ころからアフガニスタン方面からいろいろな民族が侵入し、やがて彼らはヒンドゥー教徒と混交してクシャトリアを名乗り、ラージャスタンで強力な武装勢力を形成するようになり、彼らはラージプート族と呼ばれるようになりました。この映画の舞台となるメイワール王国は、ラージプート族の王国の一つです。
一方、7世紀にアラビア半島で成立したイスラーム教は瞬く間に拡大し、アフガニスタンからインドへ繰り返し侵入しますが、ラージプート族はこれをよく撃退しました。しかし、13世紀に入るとデリーを拠点に奴隷王朝が成立し、以後16世紀までに、デリー・スルタン朝と呼ばれる短命な5つのイスラーム王朝が続くことになり、やがて16世紀にムガル帝国が全インドを支配するイスラーム王朝となります。そして、この映画で問題となるのは、2番目のハルジー朝(1290年 - 1320年)です。この王朝のスルタンであるアラー・ウッディーンは野心的な人物で、積極的な領土拡張政策を採り、その結果メイワール王国と対立することになります。なお、デリー・スルタン朝については、「「インド・イスラーム王朝の物語とその建築物」を読んで」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2019/12/blog-post_11.html)を参照して下さい。
映画では、メイワール王国の王ラタン・シンが旅の途中で、スリランカのシンガール王国の王女パドマーワティに一目惚れし、后として国に迎え入れ、二人は華麗なチットールガル城で幸せな日々を過ごします。ところが、パドマーワティに横恋慕したアラー・ウッディーンがチットールガル城を包囲し、ラタン・シンは戦死して城は陥落し、パドマーワティは自ら炎の中に入って死亡します。
パドマーワティをはじめ、映画で多くの女性がまとっているインド更紗はとても美しく、また、チットールガル城も華麗であり、その映像美に圧倒される映画でした。ただ、幾つかの問題があり、制作されてから一般公開されるまでに、かなり時間がかかったようです。第一は、映画の構成が「悪のイスラーム教徒」と「善のヒンドゥー教徒」の対立というステレオ・タイプとなっており、インドに多くいるイスラーム教の反発を受け、幾つかの州では上映が禁止されました。また、最後にパドマーワティが火の中に入って殉死する場面がありますが、インドの因習サティ(寡婦殉死)を美化するものではないかと批判されました。
結局これらの問題については、微修正された上で公開され、インドでも大好評でしたし、私にとっても、大変すばらしい映画でした。