佐藤賢一著 2018年 PHP
本書のタイトルは、長年世界史を教えてきた者には、聞き捨てならない内容です。筆者が追求するのは「ユニヴァーサル・ヒストリー」だそうです。「ユニバーサル」というのは、一般的には「普遍的」というような意味で用いますが、筆者はこの言葉の語源から「一方向の歴史」と解釈します。ここでいう「一方向」とは、「他の総てを征服して、どこまでも一元的に支配して、自分以外のものを認めない、そのような国や地域の歴史」がユニヴァーサル・ヒストリーの一例となります。もちろん私も、このような歴史を否定するわけではなく、このブログの最初に掲載した「グローバル・ヒストリー」は、一つの方向から歴史を見ようとしているものです。しかし私は何よりも多様性を重視しますので、その後のブログの内容は、ほとんど「グローバル・ヒストリー」の批判と言えるでしょう。本書で示されたような「一方向」の歴史は、ドイツ第三帝国の成立で完結するという論法も可能となります。
本書は、アレクサンドロスから始まり、ローマ帝国、西洋世界形成、イスラーム世界形成、東方世界(ロシア)と続き、現在の世界は西方世界・東方世界・イスラーム世界からなるというものです。そしてこのユニヴァーサル・ヒストリーには、インドや中国がまったく欠落しています。この点では、前に見たアメリカの世界史教科書と同じです。ただ、アメリカの教科書の違いは、欧米民主主義の勝利で終わっている点です。これについては、「「イスラームから見た世界史」を読んで」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2020/06/blog-post_10.html)を参照して下さい。筆者によれば、インドや中国が除外された理由は、インドは最終的に西方世界に吸収され、中国は世界帝国を目指さなかったからだ、と主張しています。
もちろん著者は、これ以外の歴史を否定しているわけではないし、内容はシンプルで面白く、生徒は興味をもって読むことができるでしょう。しかし私自身は、こうした単線的な歴史ではなく、歴史の多様性を教えたいと思います。現在教えられている「世界史」が面白くないから、「ユニヴァーサル・ヒストリー」がよいというのは、少し違うような気がします。
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