江口圭一著 1988年 岩波新書
日本が中国で行ったアヘンの製造や販売を、著者は日中アヘン戦争と呼び、これを具体的に描き出しました。一般に、アヘンに関わるようなことについては、資料があまり残されていないのですが、たまたま著者は古本屋でモンゴル自治政府の役人が残した膨大な資料を発見し、これを下に中国での日本のアヘン政策の全体像を描こうとしました。なお、 モンゴル自治政府というのは、日本が内モンゴルの不満分子を集めて樹立した蒙疆政府のことで、この政府は満州国と同様に日本の傀儡政府でした。
中国では、すでに100年以上に亘ってイギリスがアヘンの販売行い続けていたため、中国におけるアヘン市場は十分に開拓されていました。そして、20世紀になると、アヘン販売に対する国際的批判が高まり、イギリスはアヘン販売から手を引いていきますが、代わって日本がアヘン販売を行うようになります。とは言っても、アヘン販売は国際的に禁止されるようになるめ、日本も禁煙令を発布しますが、すでに中毒となっている患者の苦しみを緩和するため、少しずつアヘンの供給を減らすという政策をとりますが、実際にはアヘンの供給はますます増大していきます。特に、日中戦争勃発後は華北でもアヘンの販売を強化します。
それ以前には、アヘンの販売は軍の下で行われましたが、この頃から日本政府も関わるようになります。しかも、アヘン販売の目的の一つとして、敵を毒化して弱体化させるという目的も含まれているそうですから、これはもはやアヘン戦争です。本書は、こうしたアヘン戦争の経過を、かなり詳細なデータをあげて描いています。