小松久雄編著、2016年、明石書店
「テュルク」とは「トルコ」のことですが、日本では「トルコ」というと、「トルコ共和国」あるいは「トルコ共和国」内に住むトルコ語を話す人々と理解することが多く、さらにかつてはソープランドを「トルコ」といっていました。しかし本書は、トルコ共和国からシベリアまで広く居住するトルコ人全般を扱うため、英語で「テュルク」と表記したそうです。そして本書は、世界中に分布するテュルクについて、28人の研究者が、61のテーマで解説しています。
以前は、欧米や中国以外の歴史の研究は、まず欧米や中国の文献に依存していました。特に中国は「東アジアの記録係」とさえ言われ、日本も東南アジアもまず中国の史書に依存したし、またイスラーム世界やアフリカなどの研究については、まずヨーロッパの言語から学ぶことが多かったのです。しかし、最近ではそれぞれの地域の歴史を原語で学ぶ人が増えてきました。以前はこうした地域の固有名詞はヨーロッパ語の発音で行われることが多かったのですが、しだいに原語の発音に近づいていき、教科書の表記も大きく変わっていきました。見方によっては世界史の教科書の歴史は、固有名詞の表記の変遷の歴史だったと言えるかもしれません。
また、テュルクについての研究が進展した理由の一つとして、ソ連邦の崩壊があげられるかもしれません。旧ソ連のイスラーム地域は、19世紀以来ロシア・ソ連の領域でしたので、西側の研究者による自由な研究が困難でした。もちろんソ連がこの地区の研究をしなかった分けでは決してありませんが、それを全面的に公表できない事情もありました。しかし最近では、こうした地域の調査も進み、このブログでも、この地域を扱った「カザフスタン 映画「ダイダロス 希望の大地」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2017/09/blog-post_30.html)や「映画「ライジング・ロード 男たちの戦記」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2017/03/blog-post_18.html)などの映画を紹介しています。
本書は、多くの研究者が書いていますので、決して面白い本とは言えないのですが、テュルクについて相当網羅的に書かれているので、大変役に立つ本です。かつて私は、トルコ人についての断片的な知識を集め、トルコ人の歴史を整理し教えていたのですが、こうした本があれば何の苦労もなかったことでしょう。