2018年8月1日水曜日

「赤い大公」を読んで


ティモシー・スナイダー著 2008年 池田年穂訳 慶応義塾大学出版会 2014
 本書の主人公はハプスブルク家の大公ヴィルヘルムで、彼はウクライナを愛し、ウクライナの君主になることを望み、民衆のための社会革命を提唱して「赤い大公」と呼ばれました。本書は、2004年にウクライナでの民主化運動であるオレンジ革命を念頭において、ウクライナの建設に、このハプスブルク家の大公がどのように関わったかを描こうとしているようです。
しかしヴィルヘルムの夢は、二度の世界大戦、ハプスブルク帝国の崩壊、ソ連とナチスという全体主義の台頭、米ソ冷戦という現実の中で消えていきます。この過程で彼は、社会主義的な王朝国家の建設を提唱したり、パリで享楽的な生活をしたり、ナチスやソ連のスパイをしたり、そして冷戦が激化していく中で、彼はウィーでソ連軍により逮捕され、1948年にキエフの獄舎で死亡します。私には、彼の行動のすべてが時代錯誤的で、滑稽に思われてなりません。ウクライナについては、このブログの「映画でロシア史を観る 「隊長ブーリバ」」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html)を参照して下さい。
本書は、小説風に描かれます。「むかしむかし、マリア・クリスチーナという愛らしいお姫様がお城に住んでいました。お城でお姫様は、終わりから遡って始まりまでという風な読書の仕方をしていました。そこへナチスがやってきました。その後にはスターリニストたちがやってきました。この本はお姫様の家族の物語です。だからこの本は終わりから始めるとしましょう。」このお姫様はヴィルヘルムの姪であり、この物語はヴィルヘルムの獄死から始まります。

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