2014年にインドネシアで制作された時代劇で、大変珍しく、大変興味深い映画でした。この映画も、前に観たベトナム映画と同様、中国映画の強い影響を受けて、ワイヤーアクションを用いるカンフー映画のようでしたが、それでも前のベトナム映画に比べれば、格段によくできているように思いました。
この映画の時代も場所もまったく分かりません。せめて宗教が出てくれば、ある程度時代を特定できたかも知れません。インドネシアでは、仏教、ヒンドゥー教、イスラーム教の順で主たる宗教が代わりますが、こうしたことは一般の民衆には関係ないのかもしれません。撮影された場所はスンバ島で、大変美しい島だそうで、映画でも美しい風景がたっぷり映し出されています。
この映画のテーマはインドネシアの武術です。非常に古い時代からシラットと呼ばれる武術があり、現在では東南アジア各地や欧米で人気のある武術です。シラットは非常に多様で、中国の多様な武術を大雑把にカンフーというように、インドネシアの武術をシラットと呼ぶようです。現在のシラットは主に組み手として知られていますが、この映画では棒術が中心となります。どこでも、庶民がもてる武器は「棒」しかなく、庶民の間に伝わる武芸は棒術が多いように思われます。私が住む町にも「棒の手」という武芸が伝わり、お祭りなどで披露されています。
映画では、棒術の名門流派である黄金杖流の女師匠チェンパカの物語から始まります。彼女は、「他者の死によってもたらされる勝利を否定し、勝者になる欲求を抑えねばならない」と考えていました。しかし彼女の長い人生において、どうしても殺さねばならなかった三人の人物がおり、彼女は彼女が殺した三人の子供たちを育て、武術を教えていました。ビル(男性)、グルハナ(女性)、ダラ(女性)で、さらに捨て子だったアギン(10歳くらいの男子)です。チェンパカは歳をとったため、黄金杖流の後継者を決めねばなりません。黄金杖流の後継者には、この流派に伝わる黄金杖と奥義である黄金杖抱地拳が伝えられねばならず、この両方をもつ者は、最高の武術者とされました。
弟子たちの中では、ビルが年長であり最も実力がありましたので、当然ビルが後継者に選ばれると思われていました。ところがチャンパカが後継者として定めたのは、まだ未熟でしたが、邪心のないダラでした。これに不満をもったビルとグルハナはチェンパカを毒殺し、ダラから黄金杖を奪います。これに対してダラは、激しい修行によって黄金杖抱地拳という奥義を会得し、ビルとグルハナを倒し黄金杖を取り戻します。そして二人が残した娘を、彼女が育て武芸を教えていきます。まるで輪廻のごとく、同じことが繰り返されていきます。
伝統的に、シラットには「稲穂の教え」という基本思想があり、それは鍛練を積むに従って礼節や他人への思いやりを身に付け、心豊かに生きる事を理想とするそうです。これは日本の武道に通じるものがあり、大変興味深く見ることができました。私はこの映画を通じて、インドネシアについて自分が何も知らなかったことを痛感しました。私が教えてきた王朝史も宗教史も、この映画では何の意味もありませんでした。
またこの映画を通じて、東南アジアへの中国の影響の大きさを痛感しました。前に観たベトナム映画も、中国のカンフー映画と区別がつきませんでした。この映画でも中国の映画人が協力したとのことですので、ワイヤー・アクションなどではかなり中国の影響が観られました。ただ先のベトナム映画とは異なり、かなりインドネシア的なものが認められ、大変興味深く観ることができました。
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