2019年12月11日水曜日

「インド・イスラーム王朝の物語とその建築物」を読んで

宮原辰夫著 2016年 春風社
 10世末にイスラーム勢力がインドに侵入し、やがてデリーを中心にいくつもの王朝が続き、16世紀ムガル帝国が成立してインド・イスラーム文明が集大成されます。このインド・イスラーム文明を理解するためには、中世インド、特にデリー・スルタン朝時代を理解する必要があり、過去に何度もこの時代に関する本を読んだのですが、この本も含めて、未だによく理解できません。中国の五胡十六国や五代十国時代もそうですが、短命な王朝の政治的推移は、社会との変化の中で捉えることが難しく、上滑りの事実関係しか頭に入らず、すぐに忘れてしまいます。
 ただ本書は建築物をテーマの一つとしており、他の本とは少し趣が異なります。インドは多様です。仏教やヒンドゥー教やイスラーム教の建築物が並び、説明がなければ、とうてい我々の頭では整理しきれません。イスラーム教徒は異教徒の寺院や像を破壊しますが、それでも多くの建造物が残っており、破壊された建造物の材料を使って新たなイスラーム建築を建設しますので、当然異教徒の技術が残ります。有名なアショーカ王の鉄柱が、なぜデリーのイスラーム教のモスクのそばにあるのか。世界で最も高いミナレットとして知られるクトゥブ・ミナールはどのような事情で建設されたのか。こうした問題は、大変興味深い問題です。

 ただ、できればもう少し多くのカラフルな写真が掲載されていると、もっとよかったと思います。

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