森浩一著 2010年 ちくま新書
中国では、前漢の司馬遷の「史記」以来、歴代の王朝で「正史」が編纂されました。「正史」の多くは国家によって編纂されたものですが、司馬遷や陳寿のように個人で編纂されたものが、後に正史となる場合もあります。「倭人伝」は、3世紀末に陳寿が編纂した「三国志」のうちの「魏志」のうちの「東夷伝」のうちの「倭人伝」のことです。中国の「正史」は、単に王朝史だけではなく、列伝や地誌や周辺の国々についても述べています。中国周辺の古代については、自らの文字資料が残されていないため、多くの知識を中国の資料に依存しており、まさに中国は東アジアの記録係ともいえます。なお、陳寿の「三国志」は名著として知られ、明代にこれを基に「三国志演義」という長編小説が書かれ、これが我々が映画などで観る「三国志」です。
当然日本の古代史についても、われわれは中国の記録に依存しており、中でも邪馬台国や卑弥呼が登場する「三国志魏志倭人伝」が最もよく知られています。戦前の古代史研究は、「古事記」「日本書紀」に依存しており、「魏志倭人伝」は無視されていました。しかし戦後には、「古事記」「日本書紀」が否定され、代わりに「魏志倭人伝」が肯定されて、邪馬台国論争などが活発となりました。戦後の日本の古代史研究は、「魏志倭人伝」が出発点だったといえるかもしれません。とはいえ、「魏志倭人伝」の解釈を巡っては、我が国の考古学的発掘などと照らして議論百出で、最近では「魏志倭人伝」に否定的な見解もあり、さらに「古事記」「日本書紀」の見直しの動きもあります。
本書は、「魏志倭人伝」の重要性を認めたうえで、もっと幅広い観点から見直すことを主張していますが、私には多少難しすぎました。
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