2020年7月15日水曜日

映画「やさしい本泥棒」を観て

2013年にアメリカで制作された映画で、思想の自由のないナチス支配下のドイツで、本を通して心の自由を育んでいくという物語です。ナチスに関する映画は、これまでに数えきれないほど観ましたが、この映画はごく普通の少女の心の軌跡を通して、物語や言葉の大切さを語るという、異色の映画でした。
 時代は、1938年から1945年で、ナチスがドイツを席巻し、やがて第二次世界大戦が始まりドイツが破滅していく時代です。ナレーションは死神で、この期間に多くの命が失われます。主人公はリーゼル・メミンガーという12歳くらいの少女で、義父・義母に預けられることになりますが、そこへ行く過程で幼い弟が死神に抱かれます。やがて空襲は激しくなり、親友も義父も義母も死に、世の中は死に神に支配されますが、それでもリーゼルは生きつつ続けます。
 リーゼルの両親は共産主義者で、逃亡生活を続けていたため、彼女はこの年になるまで読み書きができませんでしたが、本に強い憧れを抱いていました。そこにはあらゆる知識が書かれていると思ったのでしょう。彼女が最初に手に入れた本は、葬儀屋が落としていった本で、葬儀の手引書でした。彼女は、義父に手伝ってもらって、この本を暗記するまで読みました。次は、ナチスが危険思想の本を集めて焼いている場所から、GH・ウェルズの「透明人間」という本を盗み出しました。「透明人間」とは「得体のしれない人」というヒトラーへの当てつけでしょうか。
 こうしてリーゼルは沢山の本を読み、言葉を通して自由と豊かな想像力を育んでいきます。また、多くの人との出会いもありました。しかし、死神は相変わらずせっせと働いています。終戦の直前には、義父も義母も親友のルディも空襲で死んでしまいます。しかし死神は彼女には手出しできず、戦争が終わった時、リーゼルは立派な女性に成長していました。

 リーゼルはその後作家になったようで、その言葉でこの時代の不幸を語り伝え、多くの人に感銘を与えました。世界は平和となり、結局言葉は死神に勝ったのです。映画は、幾分コミカルで大変面白く、感銘をうけました。

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