関口明・田端宏・桑原真人・瀧澤正編、山川出版社 2015年
本書は、日本の一般の人々にアイヌの歴史を知ってもらうこと目的として書かれた啓蒙書です。
本書は「序」において、知里幸恵についてのエピソードから始めます。彼女の祖母はアイヌの口承の叙事詩「カムイユカラ」の謡い手で、幸恵は幼いころから祖母から教わった物語をよく覚えていました。たまたま言語学者金田一京助の勧めで、彼女は15歳の時から、この伝承を日本語に翻訳して記録し、19歳の時に完成し、その直後に死亡しました。それが「アイヌ神謡集」として出版され、しだいにその重要性が着目されるようになります。この伝承は擦文文化とオホーツク文化の戦いを語っているそうで、アイヌ文化の形成過程を解き明かす重要なカギとなっているそうです。私としては、このようなアイヌの伝承に基づいたアイヌの歴史を読みたかったのですが、残念ながら本書は、本土側の資料に基づく従来型のアイヌの歴史でした。
ところで、1899年(明治32年)に、悪名高い「北海道旧土人保護法」が制定されますが、この「旧土人」とは、いうまでもなくアイヌのことで、「以前土人と呼ばれていた人々」を意味します。「アイヌ」というのはアイヌ語で「人」を意味しましますが、すでにこの言葉は差別的に用いられていましたので、公式には用いられませんでした。こうした中で、アイヌ人は、一時、自らを「同胞」を意味する「ウタリ」と呼ぶようになりますが、最近ではアイヌが広く用いられています。
なお、アイヌについては、このブログの「映画で奥州を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/02/blog-post_1.html)、「「北方から来た交易民」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2017/01/blog-post_11.html)を参照して下さい。
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