私は、仕事の関係で神戸で4年間を過ごしました。私にとっては名古屋との間を行き来する苦しい日々でしたが、2011年3月に神戸を去るに当たって、この文章をブログに投稿し、まもなくブログを閉鎖しました。したがってこれが大学のブログでの最後の投稿となります。
私は、神戸に滞在している間ずっと、夕食を春日野道の商店街で食べてきました。神戸製鋼があった時代には、春日野道は映画館や風呂屋が何軒もある繁盛した町だったそうですが、今はすっかり寂れてしまいました。総じて、このあたりの商店に共通しているのは、経営者が高齢化して後継ぎがおらず、そのために商売にあまり欲がなく、商店街の中でお互いに店を訪問し合って成り立っている感があります。ということは、外からの新しい客が非常に少ないということです。私などは、この商店街では数少ない新顔の客ということになります。
私が一番よく行く店は、この商店街のなかほどにある「大関」という居酒屋です。というのは、この店のママの両親が以前魚屋をやっていたため、魚が新鮮だということ、また注文に応じて何でも作ってくれるからです。一人暮らしをしていると、病気になった時に食べるものがなくて困るのですが、よくここでお粥や雑炊を作ってもらいました。いわばこの店は私のダイニングのようなところです。この店は、基本的にはママが一人で経営しているのですが、時々ご主人やママのお母さんが手伝いに来ます。このお母さんは肺癌で手術し、すでに80歳を越していますが、今も元気そのものです。
この店の隣に、「足立時計店」があり、80歳を越した老夫婦が経営しています。この老夫婦に腕時計の電池交換をしてもらうのは心痛むものがありますが、本人は40年間時計屋をやっているので、どんな時計でも修理できるというのが自慢です。でも今時、時計を修理する人なんているんでしょうか。その隣に、名前は忘れましたが、タバコ・酒屋があります。こここのお爺さんは大変元気者で、息子さんが後を継いでいます。とは言っても、お爺さんが80歳を過ぎていますので、後継者も決して若いとは言えません。「大関」の向かいに「勉強堂」という古本屋があり、ここのおばあさんがタバコ屋のお爺さんの同級生だそうです。この「勉強堂」は息子さんが経営しており、私はかなり沢山の本を買ってもらいました。古本屋のホームページには、よく本を直接とりにいきます、と書いてあるのですが、実際には100冊や200冊の本では来てくれません。しかしここのご主は、私を車に乗せて気持ち良く学校まで本を取りに来てくれ、大変助かりました。
「大関」の裏に「まねき寿司」という寿司屋があります。ここの大将は68歳で、あと2年で開業して50年になるので、その時に引退すると言っています。この店は午後6時に開店し午前3時まで営業しています。以前は、バーのホステスなどが仕事の帰りに寿司屋に立ち寄ることがよくあったのですが、最近はそういう客もずいぶん減っていると思います。でも大将は、昔からのやり方なので、このまま続けると言っています。この町の商店主は頑固な人が多く、昔からのやり方を決して変えようとはしません。また、この店は出前をやっているのですが、出前をやる以上一人では経営できないので、バイトを雇っています。ところがこの大将は口が悪く、バイトを口汚く叱り飛ばしますので、すぐバイトが辞めてしまいます。今年の正月には、「今年は怒らないと決めた」と言っていましたが、言っている先から怒っていました。現在バイトが一人、かろうじて続いていますが、はたしてこの店はあと2年続くのでしょうか。
「大関」から少し南へ下がったところに「中川」という洋食屋があります。ハンバーグ、カレー、シチューなどをおいている、昭和の初期の洋食屋を思わせるような店で、老夫婦が経営しています。ここは飲み屋ではないので、本来私がいくような店ではないのですが、一人暮らしをしていると、たまにこうした料理を食べたくなるのです。ボリュームが多く、たまに栄養をとるのに最適の店です。この店のマスターは無口で、あまり客の前に出てきません。なお、この店は日曜日が定休日で、こうした店は日曜日に家族連れが来るのではないかと言ったのですが、「昔からのやり方なので」と言って変更しようとしません。ここのマスターも頑固なおやじでした。
春日野道商店街の阪急駅に近いところに「東雲庵(しののめあん)」という蕎麦屋があります。私は蕎麦が好きなのですが、神戸には蕎麦屋がすくないため、よくここに食べにいっていました。ここの大将は変な人で、いろいろな仕事を転々としたのちに、30歳を過ぎてから蕎麦屋に弟子入りし、私が神戸に来る半年ほど前に春日野道で開店しましたそうです。それまで大将が修業していた店は元町にある「卓」という店で、経営者はここの大将より若い人で、なかなか腕のいい職人でした。どちらの大将も味には拘りがあるのですが、どうも神戸では蕎麦は好まれないようで、客の入りが今一なのが残念です。
「東雲庵」の向かいに「みくみ」というスナック風の飲み屋があります。ここのママは以前三宮でスナックを経営していたようで、客あしらいがうまく、私もストレスがたまった時には、しばしばこの店で飲んでいました。この店は三宮以来のなじみ客が多く、いつ行ってもなじみのお客さんがいます。お互いに名前を知らないのですが、結構お客さん同士で話が盛りあがっています。なお、私は今回引っ越しに当たって、この店のママに紹介してもらった業者にお願いしましたが、大変安い金額で引き受けてくれ、大変助かりました。
春日野道商店街の阪神駅に近いところに、「よろこんで」という寿司屋があります。若い夫婦(春日野道の他の店と比べて)で経営している寿司屋で、中に入ると大将が大きな声で「いらっしゃいませ」というので、まず驚かされます。そして注文すると「よろこんで」と答えます。ここはネタもシャリもやたらに大きく、私などは6貫も食べるとお腹がふくれてしまいます。また赤出汁はほとんど丼ぶりのような器に入っており、とても全部は飲めないので、いつも半分の量にしてもらっています。
「大関」の近くにジパングという喫茶店があり、私はよくここでモーニングを食べます。この店も若い夫婦が経営しており、年中無休で朝7時から店を開いています。私は、職業柄なのか、若い人が頑張っているのを見ると応援したくなります。それだけではなく、私は新聞をとっていないので、毎朝喫茶店で新聞を読むのですが、ここは色々な新聞を置いているので好都合です。また、焼きたての卵焼きを挟んだサンドウィッチが、私のお気に入りです。
私のマンションの近くに中央鍼灸院という治療院があります。ここは保険が使用できて、20分360円という格安なので、以前よく行っていました。ところが、共済組合から病気でもないのに整体治療に保険を使うことはできないという通達があったため、あまり行かなくなりました。この治療院の先生はよく喋る人で、治療している間中喋り続けています。春日野道の噂話について色々教えてもらいましたが、もしかするとこの先生を通じて私の噂が春日野道中に広がっているのかもしれません。
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