2015年8月5日水曜日

「美食と革命」を読んで


北川晴一著 1985年 三省堂 「19世紀パリの原風景②」
 著者は、19世紀フランスの文学を専門としていますが、本書で見られるような社会史的な内容の著書も多数あります。フランス料理は、今日世界遺産に登録されていますが、フランス料理が「料理」と呼べるようなものになったのは、19世紀になってからのようです。そうなった一つのきっかけは、フランス革命で王侯貴族が没落し、彼らが雇っていた大量の料理人が失業し、そのためこれらの料理人がレストランを開くようになった、ということにあるようです。本書の内容は多岐にわたり、どれも興味深いものですが、ここで具体的に取り上げることはできません。
 本書では、料理のさまざまな変遷が、社会的な背景をから説明されているため、大変興味深い内容です。例えば、フランスは今日に至るまで階層社会であり、そのことが料理にも反映されています。まず、金持やホテルやレストランでの食べ残しを集め、それを綺麗に盛り付けして出すレストランがたくさんあり、さらにそのレストランの食べ残しを、集めて出すレストランがあるそうです。残飯の流れにも、しっかり階層社会が繁栄されている分けです。
 「パリの人々ほど楽しく食事をする人間はいないのではないか」と筆者は書きます。この旺盛な食欲が、世界遺産となったフランスの伝統料理を生み出しました。ただ、伝統料理とはいっても、それは19世紀、つまり200年程前に生まれたものにすぎません。日本料理も世界遺産となりましたが、フランス料理とは異なり、日本料理には幾分「禅」の匂いがします。日本の伝統料理がどのように形成されたかについては全く知りませんが、今日われわれが日本の伝統料理という場合、それは江戸時代に生まれたのではないかと思います。池波正太郎の時代小説には、やたら食い物の話が出てきますが、日本の場合、大変穏やかな時代に食文化が発展したのに対し、フランスの場合、革命の動乱の中で食文化が発展してきます。そこにフランス料理と日本料理の違いがあるような気がします。

ジヘャン・ポー・アロン著)の「食べるフランス史」((1973 佐藤悦子訳 人文書院(1985))という本があります。これも19世紀を中心とした「食」を通じた社会史で、ずいぶん前に呼んだ本なので、あまり覚えていませんが、一読に値する本です。このような、我々に最も身近なテーマをもとに、一つの時代を再現する歴史の研究は、従来の歴史観を変えてしまう力をもっているように思います。













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