2017年5月17日水曜日

「スパイスの歴史 薬味から香辛料へ」を読んで

山田憲太郎著、1979(1995年新装版)、法政大学出版会
 本書は、近世の歴史に大きな影響を与えたスパイス=香辛料の歴史を述べたものです。サブタイトルとして「薬味から香辛料へ」とありますが、中国ではスパイスは主として薬用として用いられており、それが西方では調味料などとして大規模に用いられるようになったため、スパイスが歴史に大きな役割を果たすようになりました。この点については、このブログの「グローバル・ヒストリー 第15章 「交易の時代」(1)  付録.香辛料について」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/01/151.html)を参照して下さい。
 本書は、主として中国側の資料を駆使して、香辛料の歴史を論じています。香辛料は、中国にも西方にも非常に古くから輸入されていますが、中国の胡椒はインド産の胡椒がイラン人によってシルクロードを通じて入ってきたようです。そもそも「胡」とは、中国から見て西方の蛮人を指しますので、中国にとっては胡椒とは西方の産物でした。しかし、やがてモルッカ諸島のクローブやナツメグが知られるようになり、14世紀にはモルッカ諸島についての報告も記録されますが、中国にとってスパイスはあくまでも薬味であり、ヨーロッパのように嗜好品としては扱われませんでした。そして同じ頃に、ヨーロッパでクローブやナツメグの需要が急激に増加していきます。
 クローブの産地であるモルッカ諸島、さらにその南のナツメグの産地バンダ諸島については、近代以前に関してはよく分かっていないようです。「この島の住民は、古代から19世紀まで極めて低級(原始的)な生活を続け、外来の民族が二つのスパイスを求めにやってくるから、自然に生育しているスパイスを提供し、外来の民族が与える物資の恩恵に浴し、それで満足していたのである。文字もなく、計算も知らなかったから、彼ら原住民の記録がある筈もなく、ほそぼそと彼らの間に語り継がれていた極めて漠然とした伝承だけである。」 

 著者自身が認めているように、本書に欠けているのは、西方世界におけるスパイスの記録ですが、西方世界については他にも多数の書物があり、本書が興味深いのは、中国の視点で書かれていることだと思います。



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