2017年5月13日土曜日

映画「ナポレオンに勝ち続けた男」を観て

2012年に、ポルトガルとフランスの合作で制作された映画で、ナポレオン軍のポルトガル侵入を題材とした映画です。日本語タイトルの「ナポレオンに勝ち続けた男」というのはイギリスの将軍ウェリントンのことで、サブタイトルの「皇帝と公爵」とは皇帝ナポレオンとウェリントン公爵のことですが、実は、映画には二人ともほとんど登場ません。原題は「ウェリントンの防御線」というような意味です。
 1807年、フランス軍はイベリア半島に侵攻し、1か月後には首都リスボンが陥落します。その結果、王室は6千人もの人々とともに植民地のブラジルに亡命し、首都をリオデジャネイロに移します。ナポレオンはポルトガルを支配してブラジルを手に入れることを期待していたのですが、結局その期待は裏切られ、後は貧しいポルトガルで泥沼の戦いに引きずり込まれることなります。一方、イギリスは海ではフランスに連勝していましたが、陸では負け続けだったため、ポルトガルにウェリントン率いる援軍を派遣し、対フランスの陸での拠点を築きます。
 ウェリントンは、数の上ではフランス軍が圧倒的に優勢だったため、リスボンの近郊に、1年半かけて長大な防御線を構築しました。これが、「ウェリントンの防御線」で、トレス・ベドラス線と呼ばれます。そして1811年、ウェリントンはスペインに侵攻してフランス軍を破った後、リスボンに撤退し、それを追ってリスボンに迫ったフランス軍が「防御線」の罠にはまったわけです。フランス軍はここで壊滅的な打撃を受け、さらに翌年ナポレオンによるロシア遠征が失敗したため、ナポレオンは急速に没落に向かっていきます。
 映画は、イギリス・ポルトガル軍のリスボンへの撤退の過程(多分1カ月くらい)を描いています。イギリス・ポルトガルの兵士、フランス軍から逃れた農民・市民・僧侶など、彼らは撤退の理由を知らされていませんでしたので、惨めな敗残兵のようでした。追撃するフランス兵も惨めでした。貧しいポルトガルでは食糧を確保できず、掠奪や暴行を繰り返し、さらに兵士の脱走が相次ぎました。映画では戦闘場面はほとんどなく、こうした人々を淡々と描き出す群像劇となっています。どちら側が悪いとか、悲惨さとか、暴力的とか、惨めさとか、そういったことではなく、戦争とはこういったものだ、ということが描かれているように思います。
 1811年にフランス軍はポルトガルから撤退しますが、イギリス軍がそのままポルトガルを支配し、国土は荒廃し、ブラジルに逃れた国王は一向に帰る気配もなく、やがて国内は内乱状態に陥ります。ポルトガルについては、このブログの「「波乱万丈のポルトガル史」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/07/blog-post_29.html)を参照して下さい。

 その後ウェリントンはワーテルローの戦いでナポレオンを倒し、栄光の頂点に立ちます。戦後、彼は政治家に転身し、政界に大きな影響力を持つようになるとともに、軍の最高指揮権は、1852年に彼が死ぬまで手放しませんでした。彼は保守的な人物だったため、この間軍の改革はほとんど行われず、その結果、1853年に始まるクリミア戦争で軍の保守性が露呈されることになります。この問題については、このブログの「映画「遥かなる戦場」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2016/01/blog-post_9.html)を参照して下さい。


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