2006年に制作されたフランスのテレビ用映画で、フランスの哲学者サルトルとボーヴァワールとの不思議な男女の関係を描いています。サルトルについては、実存主義の哲学者・作家として、日本でも大変よく知られおり、また映画は哲学問題に触れていないので、ここでは深入りしません。この映画のテーマは、サルトルと「契約結婚」したボーヴォワールの女性としての苦しみです。
ボーヴォワールは、1908年にパリで生まれ、パリ大学で哲学を学んだ後、1929年に1級教員資格に2位の成績で合格します。21歳での合格は史上最年少であり、女性の合格者としては9番目でした。この時1位で合格したのがサルトルで、当時24歳でした。まもなくサルトルは、彼女に契約結婚を提案します。つまり、それは結婚関係を維持しつつ、お互いの自由恋愛を保障するというもので、契約期間は2年です。まさに前代未聞の提案です。
ボーヴォワールは、当時悩んでいました。父は大変保守的な人で、「妻は夫の創造物」と考えており、母はただ父に服従するのみでした。また、親友が学問を続けることを両親に反対され、結婚を押し付けられて発狂してしまいます。そうした中で、ボーヴォワールは女性の自立を希求しており、結婚はそれを妨げるものだと考えていました。それに対してサルトルの提案は、お互いをまったく拘束しないというものです。サルトルの容姿はあまり見栄えのするものではありませんでしたが、彼は作家になるという強い野心をもっており、それはボーヴォワール自身の野心でもありました。
彼女は、このような結婚は、結局男の身勝手ではないかとも思いましたが、それは自立した女性となるための一つの方法と考え、受け入れることにしました。サルトルは、作家としての経験を積むためと称して、次々と色々な女性と関係を持ちます。彼女は、これが契約なのだと自分に言い聞かせても、嫉妬心を抑えることができませんでした。そのため彼女も、同性愛を経験したり、他の男性と関係をもったりしますが、容易に割り切ることができませんでした。ところが、サルトルもまたボーヴォワールの男性関係に嫉妬していました。こうした様々な思いを繰り返しながら、二人の契約結婚は、サルトルが1980年に死亡するまで、50年間続くことになります。そしてボーヴォワールは、1986年に78歳で死亡します。
この間サルトルは、1938年に「嘔吐」を発表し、作家としての地位を確立しますが、ボーヴォワールはサルトルに励まされますが、なかなか書けませんでした。しかし、1949年に「第二の性」を発表し、大評判となります。そこで彼女は、女性らしさというものは、社会的に作りだされた約束事にすぎないと主張し、第二の性として女性の解放を訴えます。本書に対しては、賞讃が多かったのと同時に、批判も多かったのですが、彼女は女性とは何かをあらゆる角度から分析し、ジェンダー(性差別)の解消に決定的な影響を与えることになりました。
映画は、ボーヴォワールとサルトルとの関係を、かなり早いテンポで追っていき、彼女の苦悩を描いています。彼女は女性の自立を望んでいましたが、それでも妻になり母になる夢を抱いたこともあったでしょう。しかしサルトルとの奇妙な関係を通じて、彼女は真の女性の解放を勝ち取ることに成功したと言えるでしょう。
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