谷川道夫著 1987年 日本エディタースクール出版部
本書は、戦後展開された中国史の時代区分論争を回顧するもので、過去に発表された論文を集めたものです。
戦後、歴史を大きく見直す動きが生まれ、特にマルクス主義による歴史の再構築が試みられました。マルクスによる時代区分は、古代奴隷制社会、中世封建制社会、近代資本主義社会へと発展するというもので、この時代区分を日本史や中国史にも当てはめようとしました。西洋史では大塚久雄が、日本史では石母田正、中国史では西嶋定生などが、そうした研究の基盤を形成したのですが、色々と問題が出てきました。例えば、日本に奴隷制はあったのか、中国に封建制はあったのかといった問題です。それを解決するために、アジア的生産様式とか総体的奴隷制などといった概念が用いられ、中国では隋・唐までを古代奴隷制とし、宋以降を中世とするといった議論がなされました。
こうした議論に対して、ヨーロッパの歴史を中国に当てはめるのは無理ではないかという議論が、常にありました。そうした中で谷川は、内藤湖南の強い影響を受け、中国独自の歴史の基盤を共同体に求め、魏晋南北朝から隋唐に至るまでの時代を、共同体を基盤とする貴族層が力を持つ「中世」とし、宋以降を近世とする、という見解を主張します。それは、ヨーロッパ史的な、あるいはマルクス主義的な意味での中世ではなく、すぐれて中国的な意味での中世です。これに対して激しい議論が展開されましたが、やがてこの議論は決着を見ないまま終わり、研究者の関心は、歴史の一つの小さな局面を詳細に描き出すことに向けられていきます。
本書では、当時の時代区分論争の渦中にあった筆者により、この議論の概要が述べられおり、その意味で参考になるとともに、私にとっても懐かしい内容でした。なお、筆者自身、あまりにこの問題にコミットしすぎたため、この議論が終わった後も、そこから容易に抜け出せなかったと、自省しています。
0 件のコメント:
コメントを投稿