2016年7月27日水曜日

「アメリカのユダヤ人」を読んで

C.E.シルバーマン著(1985)、武田奈保子訳 サイマル出版社(1988)
 アメリカのユダヤ人の過半数は、1900年前後に東欧から逃れてきたユダヤ人で、著者もそうしたユダヤ人の一人です。著者は、アメリカのユダヤ人は世界で最も幸福なユダヤ人だと考えますが、それでも、著者の世代のアメリカのユダヤ人たちは、深刻な不安に悩まされているそうです。「彼らは反ユダヤ主義が増していると心配し、彼ら自身の成功や新たに得たばかりの名声が、とりもなおさず危険のもとになるのではないか、せっかく眠っている人々の羨望や鬱積した怒りをよびさまし、たとえ全世界とまではいわなくとも、一国家を支配しようとするユダヤ人の陰謀ではないかという、伝統的なユダヤ人への疑惑を復活させることを憂えるのだ。ユダヤ人家庭での子供への躾の土台は、「しいっ、静かに」だったそうです。要するに、目だたないようにすることです。
 以前に、「映画でヒトラーを観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/02/blog-post_24.html)や「映画「屋根の上のバイオリン弾き」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html)で、ユダヤ人問題について触れました。特に私の心に残っている映画は「紳士協定」と「屋根の上のバイオリン弾き」で、著者が言うようなユダヤ人の不安な気持ちをよく描いているように思いました。本書は、アメリカのユダヤ人のそうした気持ちを、さまざまな角度から、豊富な実例をあげて描き出しています。

 興味深い内容はたくさんありますが、一例のみあげておきます。「アメリカのユダヤ人にとって、クリスマスは一年を通して最も落着けない時期であった。……世界中が、急にクリスチャン一色になってしまうからだ。家々も公共の場も、クリスマスツリーやデコレーションだらけになり、デパートや街角にサンタクロースが出没する。」こうした現象を見ると、ユダヤ人たちは、自分たちがいかに異なった存在であるかを思い出すのだそうです。確かにその通りで、ユダヤ人にとっては辛い時期であろうと思います。ただ、最近では、ユダヤ人の家でも、クリスマスツリーを飾り、家族で楽しむのだそうです。ユダヤ教徒が、イエスの誕生を祝うというのは、何とも皮肉な話ではないでしょうか。


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