2020年2月26日水曜日

「アラブの春は終わらない」を読んで

タハール・ベン=ジェルーン 2011年 斎藤可津子訳 河出書房出版 1911
 著者は、モロッコ生まれで、フランスで作家となり、今日ではマグレブ文学の代表的な作家の一人だそうです。長期の独裁政権と閉塞状態の中で起こったアラブの春と呼ばれる青年たちの行動に、新しい歴史の変化を観て、筆者は本書を執筆したのですが……。
20101217日にチュニジアでモハメッド・ブウアジジという青年が、職を失い、警察に痛めつけられた末に、焼身自殺し、これをきっかけに民衆が自由と民主主義を求めて暴動を起こしました。アラブ世界の多くで、すでに何十年も続いた独裁政権が支配しており、独裁政権に反対する団体や人々は徹底的に弾圧されました。やがて独裁政権は、民衆がいかに苦しみ怒っているかということに共感することもできなくなっており、民衆が自分に反抗するなどということを、想像することもできませんでした。
しかし今回の反抗は従来の反抗とは異なりました。今回の反抗には、イスラーム教とか社会主義などのイデオロギーはなく、また特定の組織もありませんでした。人々に共通しているのは、独裁政権に対する「もうたくさんだ!」という感情でした。この思いは民衆に広く浸透しており、FaceBookを通じて瞬く間に広がり、国境さえも超えて拡大しました。翌1912年にはアラブ世界の各地で、民衆の暴動が起き、アラブ世界は新しい時代を迎えたかのように思われ、「アラブの春」とさえ言われました。筆者も、この運動に期待を込め、本書の最後で次のように述べました。
 この反抗の今後の展開は不透明だ。試行錯誤が重ねられ、不正も起こるかもしれないが、ひとつだけ確かなのは、独裁者がアラブ人の尊厳を足蹴にすることは、もうできないということだ。これらの民衆蜂起が我々に教えてくれたのはとても単純なこと、そして詩人たちが的確に言ったことだ。屈辱に対し、人はいずれひざまずいて生きることを拒絶し、命を賭して自由と尊厳を要求する。これは普遍的な真理である。2011年の春、このことを世界に思い起こさせてくれたのがアラブ民衆だったのは僥倖である。

そしてこの年から8年たった今日、アラブ世界では新たな独裁政権が成立したり、内乱状態に陥ったりしています。しかも、この間にイスラム国の台頭という異常事態まで発生しました。今後アラブ世界はどこへ行くのでしょうか。アラブの春は、今後も意味をもち続けるのでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿