2020年2月1日土曜日

映画「エジプト人」を観て

1954年にアメリカで制作された映画で、古代エジプト文学の最高傑作「シヌヘの物語」が題材となっています。この物語は紀元前20世紀頃書かれたと思われますが、この同じ頃に、メソポタミア文学の最高傑作である「ギルガメシュ叙事詩」が誕生していました。「ギルガメシュ叙事詩」が英雄物語に対して、「シヌヘの物語」は平凡な一人の男の生涯を自叙伝風に語っているに過ぎません。それにもかかわらず、「シヌヘの物語」は千年近くにわたって写本され続け、古代エジプト人に愛されました。
 シヌヘはファラオの臣下で、おそらく宮中クーデタに遭遇し、何らかの理由でエジプトをすてて各地を放浪し、シリアの族長に仕えるようになります。彼は生来真面目で勤勉な人物だったので、族長に気に入られ、その地で家庭を築いて幸せに暮らすようになります。しかし晩年になって望郷への思いを捨てがたく、ファラオに頼んで帰国の許可を得、エジプトでファラオと神々の権威に服し、ピラミッドに埋葬されることも許され、心安らかに晩年を過ごしました。そこには神の摂理や慈悲、人間の生き方など非常に普遍的なテーマが扱われ、そこに書かれていることは、「ギルガメシュ叙事詩」とともに、聖書に深い影響を与えました。
 映画は、フィンランドの作家ミカ・ワルタリの同名歴史小説を原作としていますが、時代は紀元前14世紀のアメンホテプ4(イクナートン)の時代に設定されています。アメンホテプ4世は、従来の多神教に対してアトン一神教を強制します。後のキリスト教は一神教を唱えたアメンホテプ4世を偉大な宗教改革者として扱う傾向がありますが、私には多神教より一神教が優れているという理由が分かりません。いずれにしても映画では、アトンは人々にあまねく慈悲をもたらし、平和を愛する神として描かれ、この思想は1世紀ほど後に登場するモーセに大きな影響を与えたとされます。
 主人公のシヌハはアメンホテプ4世の寵愛を得ますが、娼婦との愛欲に溺れて破滅し、放浪の旅に出ます。この間エジプトでは、一神教強制に対して各地で反乱が起き、外国軍の侵入の危機が迫っていました。こうした中で帰国したシヌハは、国を安定させるためにアメンホテプ4世を毒殺しますが、結局アテン信仰に目覚め、最後は自叙伝を書いて終わります。このあたりは、史実とも異なるし、どうしてこうなるのかも分かりません。そして最後に、「イエス・キリストの誕生より13世紀前のことである」という字幕がでますが、これも意味不明です。

 まありできの良くない映画で、むりやりキリスト教にこじつけようとしているように思われましたが、それでも私にとっては、シヌヘについて勉強するよい機会でした。シヌヘという普通の人間の一生が、何千年にもわたって古代エジプトの人々に感銘を与え続けたことに、驚きを感じました。

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