2019年10月2日水曜日

「列島の考古学 旧石器時代」を読んで

堤隆著、河出書房出版社、2011
 先史時代についての本を読むのは久しぶりで、多分本書は入門書的な本だと思いますが、それでも私にとっては新鮮でした。旧石器時代を扱う考古学は大変地味な仕事で、1万年以上前に堆積した土を掘り、ひたすら石を探します。掘り出した石については、専門家が見ても、道具なのか単なる石なのか、判断できないこともあるようです。「多用されていたであろう木や骨は、1万年という気の遠くなる期間その姿すら消し去っている。私たちは、ほぼ石という手がかりのみから、過去の人間や社会の姿を描かねばならない。時々は絶望感すら覚えることがある。」
 2000年に一アマチュア考古学研究家による旧石器ねつ造事件が発覚し、大騒ぎになりました。日本の旧石器時代は、彼の発見により数十万年前まで遡ることができるとされ、それは教科書にも記載されていました。私はこの事件を知った時、プロの考古学者がこれ程簡単に騙されてしまうものだろうかと、不思議に思いました。しかし本書を読むと、当時の考古学者たちの気持ちが理解できるように思いました。当時、日本の旧石器時代は4万年前までしか遡れず、考古学会は手詰まり状態あったようで、多くの研究者たちは新しい発見に餓えていたようです。この発見で、一気に数十万年まで遡ることができたとしたら、それは画期的なことです。また、多くは発掘者が捏造などするはずがないという性善説にも立っていました。もちろんこれに疑いを持つ人たちもいたようですが、多くの人たちがこの新発見に無批判に飛びついてしまったようです。
 前にもどこかで触れましたが、発掘は宝物探しではなく、何も発掘されなければ、何もなかったという事実が残るわけです。著者を含めて多くの考古学者たちがこの事件をきっかけに猛省し、考古学資料のより厳密の精査を心掛けるようになったそうです。その意味で、この事件は日本の考古学に良い結果をもたらしたと言えるかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿