2019年8月21日水曜日

「アルツハイマー」を読んで

コンラート・マウラー/ウルリケ・マウラー著、1998年、新井公人監訳、保健同人社、2004年。
 アルツハイマー病は、進行する認知障害の病名として、今日知らない人はいませんが、アルツハイマーはこの病気を最初に認識したドイツの精神科医の名前です。アルツハイマーは1864年に生まれ1915年に死にますが、この時代にはフロイトが活躍し、また若いユングが登場します。さらにこの時代にコッホが細菌学を確立し、日本にも大きな影響を与えました。
 学者の一生というものは比較的平凡なもので、彼も他の学者同様に、良い条件を求めて幾つかの病院や大学を渡り歩きます。そして19011126日、フランクフルト・アム・マインの市立精神病院に勤務していたアルツハイマーは、当時51歳のアウグステ・Dと呼ばれる女性に面談し、その後多数の診療記録を残します。
 「あなたのお名前は」
 「アウグステ」
 「姓は?
 「アウグステ」
 「あなたのご主人のお名前は?
 「アウグステだと思います」
 これが、今日われわれがアルツハイマー病と呼ぶ病気に関する最初の診療記録です。アルツハイマーは生涯この病気に関する資料を集め、この症例はアルツハイマーの名とともに伝えられますが、第二次世界大戦の影響もあって忘れられていきます。1960年代頃から再びこの病気が注目されるようになり、1995年にフランクフルト大学病院の地下から、膨大な資料が発見され、その中にこの診療記録が含まれていました。

 本書は、このようなアルツハイマー病の発見の過程を述べるととともに、当時のドイツの精神医学の状況を説明しており、幾分難しくもありましたが、大変興味深く読むことができました。

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