ハーバート・クッファーヘバーグ著、1972年、横溝亮一訳、東京創元社、1985年
メンデルスゾーンは、19世紀のドイツで活躍したロマン派の音楽家で、本書もこの音楽家フェリックス・メンデルスゾーンの生涯について述べていますが、本書のテーマは、この大音楽家を生んだユダヤ人の家系、メンデルスゾーン家の人々です。
メンデルゾーン家の初代、つまりフェリックスの祖父モーゼスは、1743年に14歳の時、一人でプロイセン王国の首都ベルリンにやってきます。彼は独学で哲学や宗教学を研究し、ユダヤ教の宗教的慣習を近代化し、今日の改革派ユダヤ教成立の糸口をつくりました。彼は商業でも成功し、ベルリンでも名の知られた名士となります。そのため姓をメンデルスゾーンとし、ここにメンデルスゾーン家が成立することになります。彼は成功したユダヤ人ではありましたが、子供たちに十分財産を残せるほど豊かではありませんでした。しかし息子のアブラハムは銀行家として成功し、ロスチャイルド銀行と並ぶほどの資産家となります。
こうした中で生まれたのがフェリックスですので、彼は上流社会で何不自由なく自らの才能を発揮することができました。若いころから人々に認められ、栄光の内に生涯を終えることができました。そうしたメンデルゾーンでしたが、やはりユダヤ人としての影が付きまといます。特に、彼の死後ではありますが、ワーグナーのメンデルスゾーン批判は、
「ユダヤ人はすべて真の芸術の敵である」という、きわめて非芸術的な根拠による批判でした。しかしこの見解は広くドイツ人に受け入れられ、ヒトラー時代を頂点に、1世紀にわたってメンデルスゾーンの音楽は抹殺されることになります。
本書は、18・19世紀におけるユダヤ人の生き方を描いています。メンデルゾーン家の多くはすでにキリスト教に改宗していましたが、それでも周囲から見れば彼らはユダヤ人でした。また、メンデルスゾーン家は、成功したユダヤ人の家系であり、上流階級に属する人々でしたが、それでも色々な差別を受けましたので、下層階級のユダヤ人への差別はもっと露骨だっただろうと思われます。我々日本人には、ヨーロッパにおけるユダヤ人問題というのは、非常に理解しにくい現象だと思います。
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