2018年2月3日土曜日

映画「ヴェロニカ・ゲリン」を観て

2003年にアメリカで制作された映画で、アイルランドで麻薬犯罪に取り組んでいたヴェロニカ・ゲリンというジャーナリストが、1994年殺害されるという実際に起きた事件を題材としています。この映画には、いわゆるアイルランド問題は直接関係がないため、ここではアイルランドの歴史を語るのは止めておきます。














ヴェロニカは、当時のアイルランドに蔓延していた麻薬の密売の実態を暴くために、取材を行っていました。当時麻薬は子供たちにまで蔓延しており、その原因はよく分かりませんが、当時アメリカ資本の流入によって経済が急成長し、社会的な格差が拡大したためかもしれません。映画はそうしたことには触れず、ヴェロニカが麻薬の密売組織に直接取材し、さらに猪突猛進的に黒幕の家にまで押しかけて、その結果彼女は殺害されるまでを描きます。彼女の殺害をきっかけに、民衆の麻薬撲滅運動が起き、さらに政府も憲法を改正して麻薬撲滅に力を注ぐようになります。
 しかしこの映画が述べたいのは、それだけではないように思われます。映画は、1996626日のダブリンの裁判所にヴェロニカが呼び出されたところから始まります。彼女は、1200回の駐車違反と170キロ前後のスピード違反2回で、免許の取り消しは確実でした。しかし彼女は、裁判所に顔の利く人物を通して頼み込み、結局僅かな罰金の支払いで終わりました。そしてここには二つの問題があるように思います。一つは、当時のアイルランドにおける法律の不備と執行のルーズさで、犯人が誰か分かっていても捕らえられず、捕えてもすぐ釈放されてしまいます。これが犯罪の横行を招くことになります。そしてもう一つは、彼女自身のルーズさです。法を破りまくっている彼女が、法を破る犯罪者を新聞で告発するということの矛盾です。
 話は2年前に遡ります。すでに彼女は暴露記事で有名になっていましたが、今度は麻薬犯罪組織の暴露記事を書くことを目指していました。映画で描かれた彼女は猪突猛進型でしたが、同時に二つの問題を抱えていました。一つは、ジャーナリストとして真実を追求したいというより、名声を得たいという欲望の方が勝っていました。もう一つは、あまりに世間知らずで、無謀すぎました。誰もが口にするのも恐れる犯罪組織の大物ジョン・ギリガンの名を知るや、彼女は彼の屋敷に忍び込み、本人に直接インタビューしたのです。怒ったギリガンは部下に彼女の殺害を命じ、1996626日例の裁判が終わった後、車で帰る途中、彼女は射殺されました。裁判長は、彼女のために車の運転免許証を取り上げておくべきでした。

事件後ヴェロニカは英雄となり、麻薬撲滅対策がとられ、ギリガンも逮捕されました。しかしギリガンは12年後の2013年に出所しました。写真は出所したときのギリガンのようです。そして彼は相変わらず豊かな生活を送っています。今日のアイルランドでの麻薬の売買は、以前ほどではありませんが、EU加盟国の中では4番目に多いそうです。
 映画は最後に字幕で、「ヴェロニカの死後6年の間に、世界中で196人以上の記者が殉職した」と述べています。ジャーナリストは、時には命の危険に晒されることもあります。したがって、ジャーナリストは常に慎重に行動し、まず自分の命を守ることが大切だ、と言っているのではないでしょうか。


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