藤村久雄著、1994年、岩波新書
孫文に関する本がまだ書棚に残っていました。孫文に関しては、今までに多くの本を読んできたし、すでに「映画で孫文を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/08/blog-post_22.html)で孫文について述べています。私としても、今更孫文でもないので、この本はパスしようかと思ったのですが、折角最後に残った孫文の伝記ですから、簡単に目を通しておこうと思いました。
さすがに、孫文の経歴については知っていることが多かったのですが、彼の国家建設計画については幾分関心を持ちました。まず三権分立という西欧的民主主義に、考試権と監察権を加えて、五権分立としています。考試権とは科挙であり、監察権とは御史で、いずれも中国に古くからある制度です。また、地方自治を重視し、全国に3000の県を設置し、これらの県で民権が十分に発揮され、地方自治が定着すれば、中華民国の基礎は強固になる。これによって中華民国は世界に類を見ないもっとも完全な共和国をつくり出すことができる、というものです。これらが、中国の現実に適応するものなのか、理想的にすぎるのか、私には分かりませんが、どちらにしても今日に至るまで実行されていないものです。
彼はまた壮大な国土開発計画をもっていました。具体的には、鉄道を16万キロ建設、舗装道路160万キロ建設、水力発電の開発など、世界で最も新しい、最も進歩した、そして豊な共和国の建設を目指し、それはまさに、現在の中国が目指していることです。しかしこうしたことを実現する前に、1925年に死亡します。60歳、早すぎる死でした。その直前に孫文は日本を訪問し、有名な公演を行っています。
「あなたがた日本民族は、欧米の覇道の文化を取り入れていると同時に、アジアの王道文化の本質ももっています。日本がこれからのち、世界の文化の前途に対して、いったい西洋の覇道の番犬となるのか、東洋の王道の干城となるのか、あなたがた日本国民がよく考え、慎重に選ぶことにかかっているのです。」そして日本は、覇道の道を突き進み、破滅しました。
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