小林章夫著、1986年、駸々社
著者は18世紀の英文学を専攻していまいすが、本書では18世紀のロンドンの風景を、さまざまな角度から描いています。
ロンドンは、見方にもよると思いますが、歴史的な街並みがよく保存されている都市だと言われますが、一方で、中世の街並みに、無計画に次々と新しいものが付け加わる形で発展をとげた、ともされます。それは、19世紀後半にパリで、都市計画に基づいて、整然とした都市が建設されたことと対比されますが、都市計画に基づいた都市の建設は為政者による権力の誇示を示していますが、そうした都市計画をもたないロンドンは、自由に発展した都市だったと言えるかもしれません。ただ、18世紀のロンドンは、あらゆるものがごった返しており、無秩序の極みでもありました。この時代を描いたものとしては、デフォーの「大ブリテン周遊記」やホガースの絵画など貴重な資料が残っています。デフォーについては、「「ロンドン・ペストの恐怖」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2016/08/blog-post.html)、ホガースについては、「「大英帝国の人種・階級・性」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2016/02/blog-post_10.html)を参照して下さい。
18世紀のイングランドは、17世紀の危機の時代を抜け出して、急速な発展を遂げ、それとともにロンドンに多くの人が集まり、ロンドンは「不規則で、一貫性を欠く怪物のごとき身体」になっていったとされます。本書はこうした18世紀のロンドンを、「都市の自由 あふれかえる群衆たち」「都市の荒廃 捨て子育児院の設立」「都市の腐敗 監獄と暗黒街」などの側面から描き出しており、大変興味深い内容で、それはまさに「ロンドン・フェア」でした。
「18世紀前半、とくに20年代から40年代までのロンドンは、……バランスがかなり保たれていた時代と言えるかもしれない。あふれかえる群衆を迎えて、種々の楽しみがロンドン各地で繰り広げられていた。貧困や衛生にまつわる問題はもちろん無視できないものとはなっていたが、その中で各層の人間たちは楽しみを追求し、それが一種のはけ口となって、地下にたまったエネルギーが大爆発することは避けられていた。しかし、世紀半ばを越えるあたりから、そうした小規模な噴火で発散しきれない力が社会問題となっていく。そのとき、どのような対策がとられたか、ロンドンの発展にともなっておこる不可避の問題を、社会のいろいろな場所でどう対処していったのかが、大きなポイントとなるであろう。」
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