本書は、三河吉田藩の目付け役の記録をもとに、江戸時代に行われた大名の参勤交代の実情を再現しています。ただ、私自身としては、参勤交代そのもより、舞台となった三河吉田藩(豊橋)の方に興味があります。豊橋には、以前仕事で毎週のように訪問しており、静かな地方都市として、私が大変好きな町でした。
今日の愛知県は、古代令制国家の尾張と三河からなり、江戸時代には尾張は尾張徳川家により統一支配されていましたが、三河には、大名領、直轄領、旗本領、寺社領などが多数散在しており、そのうち東海道の三河吉田藩は東海道の要衝をおさえる重要な藩です。この藩は領地替えが多く、5~8万石程度の藩でしたが、名門に与えられることが多く、この藩の領主になることは、幕閣への登竜門とさえ言われていたそうです。18世紀半ばに、ようやく松平家が藩主として定着しますが、第4代藩主の松平信明1788年に老中に任じられて、事実上の最高権力者として幕政を主導しまた。
その後嫡男が後を継ぐことになりますが、嫡男は江戸で過ごしますので、一度お国入りすることになりました。大名の嫡男にとって、故郷は国元ではなく江戸だったのです。ところが藩主が長く幕閣にいましたので、吉田藩は長く参勤交代の経験がありません。ここからが、本書の中心課題となます。他藩から参勤交代のマニュアル・本を借りてきたりして、些細なことに命をかけた奮闘が始まります。参勤交代に関わる儀式は、今日の我々からは笑ってしまうようなくだらないことが多く、それを大の大人が真剣に取り組んでいるのも滑稽です。
しかしこうした儀式を通して、地方文化と中央文化の一体化が進み、まもなく訪れる黒船の到来に対応する柔軟性が形成されたのではないかと思われます。
2014年に制作された映画で、参勤交代をコミカルに描いています。時代は、8代将軍・徳川吉宗治世下で、陸奥国磐城の小藩・湯長谷藩が諸々の事情から5日で参勤交代を行わねばならなくなりました。参勤交代は、一定の基準を守らねばならず、磐城からだと普通8日かかるそうです。それを5日で達成するために、ある意味馬鹿々々しい努力が滑稽に描かれています。
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