庄威著、吉村善太郎訳 臨川書店(1989年)、原作の出版年代、原著者の略歴については、本書に紹介がありませんでした。本書は、100ページ余りの小冊子ですが、中国における5000年に及ぶ図書の歴史を簡潔に記述しています。私は、以前に同様のテーマを扱った本を読んだことがあり、ここに書かれていることは、すでに知っていることが多かったのですが、本書では簡潔に図書の歴史が要約されており、大変読みやすい本でした。
まず、縄結びから文字の発生に至る過程が述べられます。図書の発生はいつかということについては、何を「図書」と呼ぶかによって異なるでしょう。「縄結び」も何本もの縄結びを系統的に繋いで情報を伝えますので図書と言えなくはないし、西周時代の亀甲には小さな穴が開いていて、それに紐を通して系統的に保存したでしょうから、これも図書と言えなくはありません。殷代には青銅や石に文字が書かれますが、多いものでは5~600字書かれていたそうですので、これはもはや立派な図書と言えるのではないでしょうか。
漢代には竹木簡が広く用いられていますが、「一本の簡片に、平均して20文字書くとしたなら、2万字で一冊のほんとなるには一千本の竹木簡が必要である。分量の比較的大きな本が何冊かあれば、一台の荷車が一杯になるのである。」こうした中で紙が発明され、紙が普及すれば図書に対する需要はますます増大し、その結果印刷術が発明され、やがてカラー印刷も可能となります。本書は、その経過を、技術的な面を含めて、かなり詳しく述べています。
中国の王朝は、富と権力にものを言わせて、多くの書画や図書を集め、さらに大規模な編纂事業を行います。15世紀に編纂された類書「永楽大典」は2万巻を越え、文字数は4億文字に近いそうです。清代に編纂された「四庫全書」は8万巻近く、10億文字、筆写人員は4000人余りだったそうです。ただ、正史に関してもそうですが、こうした国家的な文化事業には問題もあります。つまり編纂にあたって、王朝にとって不利なものは排斥され、思想統制に利用されるということです。
また、本書ではなく、以前別の本で読んだのですが、権力によって膨大な書画を一箇所に集め、それが王朝交替の戦乱などによって、まとめて焼失するといったこともしばしばありました。そのため、「四庫全書」は、正本7部が浄書され、各地に分散して保管されましたが、アロー戦争・太平天国の乱、義和団事件などによって4部が焼失しました。それでも3部が残っている分けですが、完成されてから100年余の間に4部が失われた分けです。中国の歴史は、こうしたことの繰り返しのようですが、それにしても中国人の図書への情熱には驚くばかりです。
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