2020年7月4日土曜日

映画「コロニア」を観て


2015年にドイツで制作された映画で、1973年のチリでのクーデタをきっかけに起きた失踪事件を題材にしています。チリでは、1970年にアジェンデ社会主義政権が成立しますが、1973年にピノチェトにより軍部クーデタが起き、その際に多くの失踪事件が起きました。このクーデタと失踪事件については、このブログの「映画「ミッシング」を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2017/09/blog-post.html)、「映画「ノー」を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2017/03/blog-post_11.html)を参照して下さい。また、この時代には中南米諸国で軍事独裁政権が増え、同様の失踪事件も多発しますが、アルゼンチンでの失踪事件については、「映画「ジャスティス 闇の迷宮」を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2017/03/blog-post_4.html)、を参照して下さい。

この映画は、チリの独裁政権と深く結びついた邪悪な組織「コロニア・ディグニダ」(尊厳のコロニー、ビジャ・バビエラ)の実態を描いています。ことの起こりは、1945年にドイツが戦争に敗北し、多くのナチス党員が南米に亡命し、各地で暗躍するようになり、中には第三帝国の復活を目指す勢力もあったそうです。チリでは、かつてナチスのヒトラーユーゲントの団員だったパウル・シェーファーという人物が、首都サンチャゴから340キロ南の渓谷に、異常な集落を建設します。彼は、西ドイツで児童に対する性的虐待で起訴されたため、ドイツを脱出して1961年にチリで自らの「世界」を作り出しました。40年存続したこのコロニアでは残酷な拷問や児童に対する性的虐待が行われていたそうですので、コロニアは彼の性的嗜好のために建設されたのかもしれません。こうした性的嗜好をもつ人は、どの社会にも存在するようですが、それが表面化するケースは僅かです。ところがナチスのような異常な体制のもとにあっては、こうした人々が大手を振って活動できる可能性が生まれるようで、この意味においてもナチスの異常性を垣間見ることができます。
ドイツのカメラマンであるダニエルは、チリのアジェンデ政権を支援するためサンチャゴで活動していましたが、1793年の軍部クーデタ以降突然失踪してしまいます。彼の恋人レナはルフトハンザ航空の客室乗務員で、フライトでチリにやって来て、ダニエルを探します。やがて彼女はダニエルが、ピノチェトから拷問を請け負っているコロニアに連れていかれたことを知ります。そのため彼女はコロニアに潜入し、5カ月近くかけてダニエルを脱走させるのですが、その過程でコロニアのグロテスクな世界が描きだされます。それはナチスの支配体制を模して自己の欲望を達成しよとするもので、ナチスは人間のあらゆる醜さを曝け出させる装置のようにさえ思われます。

二人が脱出に成功しても、ピノチェト政権は1990年まで続くし、コロニアは2千年代まで続きますので、当面チリには何の変化も起きませんでした。

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