2020年7月23日木曜日

「哀しみのダルフール」を読んで


ハリマ・バシール&ダミアン・ルイス著 2008年、真喜志順子訳、PHP研究所、2010年。ハリマ・バシールというスーダンの女性がジェノサイトに遭遇してイギリスに亡命し、そこでダミアン・ルイスという高名な作家・映画監督の協力を得て、本書を執筆しました。したがって本書に書かれている非道な出来事は、すべて事実です。










 「スーダン」とは、アラビア語で「黒い人」を意味し、アフリカ北部を支配するアラブ人から見て、南の「黒い人」といった意味で、広い意味ではアフリカ東部から西部を指していたようですが、ここで問題となるのはエジプト南部のスーダンです。この地域では、アラブ系イスラーム教徒、非アラブ系イスラーム教徒、イスラーム教徒でもアラブ語を使用しない人々、伝統宗教を維持する人々などが混在していました。問題の発端は、19世紀末にヨーロッパ列強がアフリカ大陸を分割し、彼らの都合で境界線を引き、結果的にその多くが今日の国境となったため、一つの地域に複数の民族が混在したり、一つの民族が複数の国に分断されるという事態は、アフリカでは恒常的です。その結果、ある民族が他の民族を絶滅させるというジェノサイトが起きますが、これについては、このブログの「映画でアフリカを観る ルワンダの涙」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/01/blog-post_7359.html)を参照して下さい。
 この物語の主人公ハリマは、1979年にダルフールで非アラブ系として生まれ、大変気が強く、また頭がよく、町の学校に通い、やがて大学の医学部に入って医師となります。彼女が語るダルフールの農村での生活や学校生活についての記述は、大変興味深いものですが、すでにこの時代には子供たちの間にさえ、アラブ系と非アラブ系の対立が随所に見られました。そして2003年にアラブ系の民兵組織が大規模な殺戮を開始し、2010年までの間に40万人が虐殺され、250万人が難民となったとされます。この間の彼女の生活は惨めで厳しいものでした。レイプされ、拷問され、お尋ね者となってチャドの難民キャンプに逃げ込み、さらにイギリスに渡ってマスコミにダルフールの実情を語ります。
  罪なき人々が死んでいく。食べる物も飲む物もない人々。家を失い、路上で、草むらの中で暮らす人々。砂漠で道に迷い、飢えと渇きによって、戦争の犠牲となって死んでいく。なぜ? 彼らが何をしたというのだろう? 何もしていないではないか。誰もがもっているはずの人間愛に思いをいたすべきだ。もしあなたが、彼らと同じ目に遭ったら、それを受け入れられるだろうか? もしあなたの家族が同じ目に遭ったら、それを受け入れられるだろうか?
  イスラーム社会はどこにあるのか? アラブ世界はどこにあるのか? 世界中の人々はどこにいるのか? イスラーム教徒が何の理由もなく、同じイスラーム教徒をどうして殺せるのか。これは神が禁じられたことだ。神は言われた。「正当な理由と権利無くして、命を奪ってはならない。」だが彼らは、権利も、正当な理由もなく、命を奪っている。
  ダルフールは世界から分離されていない。スーダンは世界から孤立してはいない。だが人々は、このような犯罪を止めさせる力があるのに、ただ、立ちすくんで眺めていただけだ。状況を政治的に捉えるべきでない。なぜなら犠牲となっているのは、罪なき人たちだからである。彼らは何も悪いことをしていないのに殺されているのだ。彼らが何をしたのか? 
  わたしは自分がそれをくぐり抜けた生存者の一人、生き延びた人々の一人だと思った。そして世界にメッセージを送るために、罪なき人なき人々が死んでいることを世界中に知らせるために、神は私を選ばれたのだろう。世界は彼らを守り、助けの手をさしのべてくれるかもしれない。


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