2020年7月20日月曜日

「ヴェネツィアと水」を読んで

ピエロ・ベヴィラックワ著 1995年 北村暁夫訳 2008年 岩波書店
ヴェネツィアに関る本は、私も過去に多数読み、ヴェネツィアと水との関係についてもよく知っているつもりですが、本書はヴェネツィアと水との関係だけを論じています。ヴェネツィアは河川から流れ出す土砂が海に堆積し、そこに島が生まれ、そこに人が住み、都市になっていきました。ヴェネツィアは、高潮や嵐により何度も水害に見舞われますが、優れた政治システムにより、水を克服し、ヴェネツィアに繁栄をもたらしました。
海水との戦いについては、いままでにも繰り返し論じられてきました。これらに対して本書の新しい点は、川の水の影響について述べていることです。河口から流れ出る土砂は海を埋め、やがてヴェネツィアを生み出しましたが、その後も絶え間なく流れ出る土砂はヴェネツィアを陸地と繋ぎ、今やヴェネツィアは島ではなくなる可能性が出てきました。もともとヴェネツィアを生み出した人々は、陸での動乱を避けるために逃げてきた人々で、地続きなれば防衛上の問題が発生します。さらに、土砂の堆積は海流の流れを悪くし、ラグーンの生態系を破壊し、不衛生となり、疫病が発生します。これを解消するためにヴェネツィアが採った方法は、河川の河口の位置を大きくずらせることでした。これは大変な工事でしたが、このようにしてヴェネツィアは海だけでなく川の水とも戦いながら存続してきたのです。

しかし19世紀後半になるとヴェネツィアはイタリアに併合され、イタリアの一都市となったため、ヴェネツィアの存在感が低下し、かつてのように水との戦いのため大規模な工事を行うことが困難となってきました。また20世紀には陸地の海岸地帯に工場が立ち並び、環境破壊が深刻となってきました。さらに温暖化により、海水面が上昇し、ヴェネツィアは水没の危機にあります。筆者は、このヴェネツィアの状態は世界への警告である同時に、これにヴェネツィアがどう対処するかが、今後の世界の教訓となるだろう、と述べています。

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