2018年10月24日水曜日

池田晶子を読んで


 麻実は大量の本を読んでいました。いつも図書館から大量の本を借り、さらに自分でも買っていました。麻実がもっていた本の種類は多岐にわたり、哲学・文学・ミステリーなど、さまざまです。私は麻実が残したこれらの本を読んでみて、彼女がどのようなことを考えていたかを掘り起こしてみたいと思います。
 私と麻実には大きな違いがあります。まず私は、文学青年だったころには文学や哲学書を多く読みましたが、方角を歴史に変えてから、歴史書以外はほとんど読まなくなりました。哲学は絶対的なものを求めますが、歴史学はあらゆる事象を歴史の俎上に乗せ、相対化してしまいます。また麻実は本を一字一句熟読するタイプでしたが、私は乱読するタイプでしたので、私は決して真に麻実を理解することはできないと思われますが、それでも少しでも彼女に近づきたいと思い、こうした作業を開始しました。
 麻実は自分の内面を語ることはほとんどありませんでしたが、かなり前から哲学に関心を抱いていたようです。中学1年の頃、麻実は私に「哲学って何?」と尋ねました。この問いに私がどのように答えたのか記憶していませんが、この問いについて私は今でも答えられないので、大した回答はしていないと思います。その後麻実は、時々哲学書を読んだり、忘れた頃に私に哲学的な議論を吹っかけてきましたが、彼女と哲学との関係について私が知っているのは、その程度です。

 麻実の死後、彼女の本の中から、池田晶子の本を4冊発見しました。麻実の本はあちこちに雑然と置かれており、それらの中でたまたまこれらの4冊を発見したというだけで、他にもあるかも知れませんが、とりあえずこの4冊を読んでみました。
池田晶子
 「人生のほんとう」 トランスビュー 2007
 「暮らしの哲学」 毎日新聞社 2007
 「魂とは何か さて死んだのは誰なのか」 トランスビュー 2009
 「君自身に還れ 知と信を巡る対話」大峯 顕との対話 本願寺出版社 2007
 後に「ロゴスに訊け」(2002年、角川書店)、「私とは何か」(2009年、講談社)を発見しましたが、もう読みませんでした。
 著者は、哲学を難しい言葉を使わず語ることを得意とし、それによって多くの人々の支持を得ました。彼女は存在というものを問い続けたように思われ、麻実も時々私に「存在」について問いかけたことがありましたが、それは著者の影響によるものかもしれません。著者は晩年には仏教に傾倒していったようで、その点を含めて、私は著者の考え方に大枠では共感しています。ただ三冊目を読み始めたあたりから少し飽きてきて、飛ばし読みになってしまいました。最近は、読書においても根気がなくなりました。
 どの本だったか忘れましたが、著者は14歳のころから哲学的な問題を考え始め、かなり成長してから、ある時ふとしたかとから、自分の周りの人たちの多くが、自分と同じように哲学的な問題を考えているわけではない、ということに気づいて衝撃を受けたそうです。そして以前に麻実も同じような疑問を私に投げかけたことがありますが、今から思うと、それは彼女の著書の影響だったかもしれません。
 実は私も過去に同じ様な経験をしたことがあります。ある時、自分のような考え方をする人は、むしろ例外的などということに気づきました。著者は、こうしたことを考えない人々を、幾分軽蔑的に見ているように思われますが、私は違います。体育を得意とする人々がいれば、思索を得意とする人々もおり、どちらが優れているわけでもない、と私は思います。第一、私の思索など、人に語れる程のものではありません。ただ、この点において私は、娘との数少ない接点をもつことができました。

 ここで取り上げた四冊の本は、いずれも2007年から2009年にかけて出版され、この間の2007年に著者池田晶子は肝臓癌で、46歳の若さで死亡します。したがってこれらの本を執筆している時、彼女は自分の死が近いことを知っていたと思われますが、彼女は死ということに特別の意味を感じていなかったようです。そして娘の麻実も、この本を読んで、自分の死について考えたに違いありません。彼女は、2018年に36歳で死亡ました。
その後、麻実の本箱を整理していたら、さらにたくさんの池田晶子の著書が発見されました。
「メタフィジカル・パンチ 形而上より愛をこめて」「2001年哲学の旅」
14歳からの哲学 考えるための教科書」「死とは」「リマーク 19972007
「帰ってきたソクラテス」「さよならソクラテス」「人生は愉快だ」「考える日々」
「人間自身 考えることに終わりなく」「魂を考える」「事象そのものへ!
「睥睨するヘーゲル」など
 もはやこれらの本をすべて読む気力は、私にはありません。麻実は、よほど池田晶子に心酔していたようですが、麻実の初期の小説に見られる哲学的思弁は、池田晶子とはかなり異なっているように思えます。














(この絵は本文とは関係ありません。麻実が描いた不思議な絵です。)

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