2020年6月10日水曜日

「イスラームから見た世界史」を読んで


タミム・アンサーリー著 2009年 小沢千重子訳 紀伊国屋書店 2011
 筆者はアフガニスタンで生まれ育ち、やがてアメリカに留学し、アメリカで世界史教科書編集の仕事をしていました。ところがアメリカの世界史教科書には、イスラーム世界の記述がほとんどないため抗議しましたが、却下されました。以下は、当時の世界史教科書の目次です。
1.文明の誕生 エジプトとメソポタミア
 2.古典時代 ギリシアとローマ
 3.中世 キリスト教の興隆
 4.再生 ルネサンスと宗教改革
 5.啓蒙時代 探検と科学
 6.革命の時代 民主革命・産業革命・技術革命
 7.国民国家の出現 覇権をめぐる闘争
 8.第一次世界大戦と第二次世界大戦
 9.冷戦
 10.民主的な資本主義の勝利
教科書的な歴史は現在の状況を最高のものとして、そこから過去を振り返るものであり、欧米人にとって現在の状況とは「民主的な資本主義の勝利」ということになります。そこで筆者は、イスラーム世界から見た世界史を書くことを決意し、その結果が本書となったわけで、次にその目次を掲載します。
1.古代 メソポタミアとペルシア
2.イスラームの誕生
3.カリフの時代 普遍的な統一国家の追求
4.分裂 スルタンによる統治の時代
5.災厄 十字軍とモンゴルの侵入
6.再生 三大帝国の時代
7.西方世界の東方世界への浸透
8.改革運動
9.世俗的近代主義者の勝利
10.イスラーム主義の抵抗
どちらにも、東アジア史などが含まれておらず、私から見れば、西洋の地域史と西アジアの地域史にしかみえません。本書は650ページに及ぶ大著ですが、私は長く世界史を学んできたため、大半が知っている内容であり、読むのにそれほど苦労はしませんでした。それでも、イスラーム世界から見た歴史には興味深いものも多々ありました。たとえばヨーロッパ中世の項で次のように述べています。
当時のイスラーム世界は西ヨーロッパについて、ヨーロッパ人がその後久しくアフリカ大陸の奥地について無知だったのと同様に、ごく乏しい知識しか持ち合わせていなかった。ムスリムから見れば、ビザンツ帝国とアンダルス(スペイン)との間には太古の森が広がっているだけで、そこに住んでいるのはいまだに豚の肉を食べているような未開人だった。ムスリムが「キリスト教」というとき、それはビザンツ帝国の教会や、ムスリム支配下の領土で活動していた(アルメリア教会やコプト教会など)より規模の小さな各種の教会を意味していた。はるか西方の地でかつて高度の文明が栄えていたことは、ムスリムも知っていた。イタリア南部などムスリムがたびたび襲撃していた地中海沿岸地域には、その痕跡が歴然と残っていた。けれども、その文明はイスラームが世に出る以前の無明時代に崩れ去っており、今では過去の記憶にすぎなかった。

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