2020年6月3日水曜日

映画「スノーデン」を観て




2016年に制作されたアメリカ・ドイツ・フランスの合作映画で、アメリカ国家安全保障局 (NSA)の職員だったスノーデンがNSAの情報収集の違法性を暴露した事件を描いています。
諜報活動というものは、何時の時代でも、どんな所でも、大なり小なり行われてきましたが、特に第二次世界大戦後に米ソの冷戦が本格化すると、諜報活動は大規模かつ組織的に行われるようになります。アメリカの諜報組織としては中央情報局(CIA)がよく知られていますが、NSACIAに劣らず重要です。NSAはアメリカ軍に所属し、その存在が長期間秘匿されてきたため、あまり知られていませんでした。CIAは主として人間を使った諜報活動を行うのに対し、NSAは主として電子機器を使った諜報活動を行いますが、どちらも諜報の対象は国外であって、自国民への諜報活動は禁止されています。そしてここで問題となったのは、自国民への諜報活動です。
権力は、少しでも多くの情報を得たがるし、可能な限り情報を隠匿したがります。その結果諜報機関が肥大化し、一人歩きするようになります。特に2001年に起きた9.11同時多発テロ事件以降、諜報活動が重視され、政権もこれを容認するようになります。本来の調査対象が外国であったとしても、それと関連する国内組織や人物を調査・諜報し、さらにこれと関連する個人を調査していく過程で、膨大な個人に対する諜報が行われ、プライバシーの侵害が行われました。
スノーデンは、大学でプログラミングなど計算機科学を学び、その過程でパソコンやゲームのオタクとなります。2003年に19歳で大学を離れ、特殊部隊の兵士としてイラク戦争に派遣され、さらにその後CIANSAでコンピューターセキュリティに関連する仕事を行います。アメリカの若者には、軍や政府機関で働くことで国家に奉仕したいと考える人が多く、彼もまたそういった若者の一人でした。この過程で彼は、CIANSAが行っている違法な活動やプライバシーの侵害を目撃します。彼は、常に自由を基本理念とするアメリカ合衆国憲法に忠実であろうとし、それこそがアメリカの民主主義の基礎だと信じていました。しかし彼がCIANSAで目撃した事実や彼の日々の職務そのものが、こうした理想とはかけ離れており、ストレスが強まって癲癇の発作まで起こすようになります。それでも、オバマが大統領に就任すると、スノーデンは事態が改善される期待していたのですが、その期待は裏切られました。
 こうした中で、スノーデンはNSAの情報収集活動を暴露しようと考えるようになります。こうした行動は彼自身の暗殺や逮捕に繋がる危険性がありましたが、すでに2006年にオーストラリアのジャーナリスト・アサンジがウェブサイト・ウィキリークスを立ち上げ、ハッキングによって得た機密情報を次々と暴露していました。こうした時代背景のもとに、スノーデンは2012年から2013年にかけて、NSAによる情報収集活動を暴露しました。その内容は驚くべきもので、アメリカの同盟国の首脳のメールや電話を傍受し、さらにアメリカ国民に対する幅広い情報収集が行われていました。スノーデンが29歳の時でした。
 その後スノーデンは潜伏生活を続けた後、ウィキリークスの支援でロシアに亡命し、彼の恋人も合流して平穏な生活を送っているそうです。国家機密を暴露することは、機密に関わっている人々の安全を脅かす可能性がありますが、それでも長期的に見れば自由と民主主義の発展にとって、情報を公開することは不可欠です。実際、その後のアメリカでは、情報収集に関する一定の制限が行われるようになりました。
なお、この映画の撮影は、アメリカでは妨害されたため、ドイツで行われました。


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