2020年4月8日水曜日

映画「英国王のスピーチ」を観て















 2010年にイギリス・オーストラリア・アメリカにより制作された映画で、吃音に苦しんだイギリス国王ジョージ6(在位1936年-1952)の苦闘を描くとともに、大英帝国の衰退の様を描いています。
 まず、ジョージ6世に至るまでの歴史を簡単に振り返っておきたいと思います。19世紀前半に即位したヴィクトリア女王は、63年も在位し、1901年に死亡しました。次に長子エドワード7世は、即位した時すでに60歳で、わずか10年の在位で死亡します。その後を継いだジョージ5世の時代には、第一次世界大戦などの試練はありましたが、それでも植民地や自治領を含めて、形式上、世界人口の4分の1の人々がイギリス王冠のもとに服していました。1936年に長子のエドワード8世が即位しますが、彼は以前から年上の女性や既婚者に好意を寄せる傾向があり、即位当時二度の離婚歴のあるシンプソン夫人と付き合っており、即位後彼女と結婚すると言い出したのです。イギリス国教会の首長であるイギリス国王が、離婚歴のある女性と結婚することは許されませんので、エドワード8世は1年足らずで退位することになります。
 その結果、弟のジョージ6世が即位することになりましたが、問題は彼が吃音症だったということです。吃音症の原因ははっきりせず、したがって治療法も確立していません。自ら吃音症だった大杉栄が特異な見解を披露していますが(「大杉栄伝 永遠のアナキズム」を読んで http://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2019/07/blog-post_31.html)、これも原因の一つという程度です。多くの吃音症は10歳前後までに治るそうですが、成人後も治らないケースもあります。ジョージ6世の不幸は、彼が国王の息子であり、兄がスキャンダルで1年足らずで退位し、国王になることを最も嫌っていた自分以外に国王になる者がいなかったということです。特に国王は、しばしば国民に向けてのスピーチを行わなければなりませんでした。すでに1925年に国王の代理で行ったスピーチは、大失敗に終わっていました。
 そこでジョージ6世は、たまたま新聞の広告で見た言語聴覚士であるオーストラリア出身のライオネル・ローグのロンドンのオフィスを訪ねました。ローグは医師の免許ももっておらず、そもそも言語療法士なる職業は存在しませんでしたので、かなり怪しげな人物でした。しかし彼は、第一次世界大戦後従軍のストレスで言語障害を患っていた人々の治療を行い、多くの経験を積んでいました。ローグはジョージ6世に心を開かせるため、わざと挑発的な発言を繰り返し、ジョージ6世は怒って帰ってしまうこともしばしばでした。そして1936年の戴冠式のスピーチにローグが付き添い、スピーチは見事に成功しました。さらに1939年にイギリスがドイツに宣戦布告する際、ジョージ6世はイギリスと世界の人々にラジオの生放送で、見事な演説を行いました。
 二人の関係は1952年にジョージ6世が死ぬまで続き、翌年ローグも死亡しました。映画では、吃音矯正のための二人の激しいやり取りが再現され、大変興味深く観ることができましたが、この矯正方法がすべての吃音症に効果があるかどうかは、分かりません。また、ジョージ5世の時代は大英帝国衰退の時代でもありました。イギリスは、第二次世界大戦で疲弊し、戦後は植民地が次々と独立し、それとは逆に世界は米ソという超大国の争いの場となり、イギリスの存在感は一層低下しました。もちろんそれは、ジョージ6世の責任ではなく、たまたまそういう時代にめぐり合わせた国王だったということです。

 なお、ジョージ6世の長女エリザベスが今日の女王エリザベス2世で、すでに2007年にヴィクトリア女王の在位記録(63)を抜いています。

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