2019年4月24日水曜日

「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」を読んで


ジョ-・マーチャント著 2008年、木村博江訳 文藝春秋 2009













 アンティキテラとは、ギリシアのペロポネソス半島とクレタ島の間にある小島で、その沖合で1901年に沈没船が発見され、この沈没船の中で奇妙な「機械」が発見されました。本書は、この機械の発見からほぼ全容が解明するまでの、ほぼ100年の歴史を述べています。

 本書は潜水技術の発展の歴史やサルベージ技術の発展などが、いかにこの「機械」の発見に貢献したか、というところから述べます。その後、この機械らしきものについて多くの人が魅せられ、多くの研究者が機械の謎の解明に挑み、挫折していきました。研究が挫折した最大の理由は、機械の腐食が激しかったこと、さらにいつもの偏見、つまり古い時代にこんなものが作れるはずがない、という偏見が邪魔をしました。
 しかしたゆまぬ努力と技術の進歩で、少しずつ機械の正体が解明されていきます。まず放射性炭素年代測定法の開発により、沈没船が紀元前2~3世紀頃のものであることが判明します。その後長い空白の時代を経た後、高解像度X線断層撮影が行われて、内部構造がかなり明らかになります。その結果、この機械が惑星の運動を計算するものであることが判明し、今日アテネの博物館に展示されています。
 この機械を観た多くの人々は、2千年以上も前に制作されたこの機械を観て、あまりに現代の機械に似ているため、身近に感じたそうです。多くの人々が、この知識が継承されていたなら、産業革命は千年以上早まったはずだと考えました。しかし著者がこの機械を観て感じたのは、「私たちと古代人の距離の近さではなく、遠さ」でした。
 本書の訳者は最後に次のように述べています。「現代の人々は古代人には想像もしえなかった宇宙旅行を実現し、人類史上かつてないほど宇宙について詳細に調べ上げ、知識を得た。だが知識や技術が進歩すればするほど、人の視点は広大なものより微小なものへと向かい始める。正確無比な実用性よりも、天界の美しさに感じ入り、それを表現することを追い求めた古代のギリシア人。現代の私たちが失ったものは何かという著者の最後の問いかけは、読む者の心に深く刻まれるに違いない。」
 歴史を学ぶ魅力の一つは、現在との共通点より、相違点を知ることに感動を覚えることだと、私は思います。

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