2019年4月18日木曜日

「古代蝦夷の英雄時代」を読んで


工藤雅樹著 2005年 平凡社
 本書は、蝦夷(えみし)についての研究書です。えみし・えぞ・アイヌについてこのブログで何度も触れてきした。これについては、「「アイヌ民族の歴史」を読んで」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2018/09/blog-post_19.html)「映画で奥州を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/02/blog-post_1.html)、「「北方から来た交易民」を読んで」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2017/01/blog-post_11.html)を参照して下さい。
 本書は、蝦夷について長い間議論されてきたことを、体系的に整理します。まずそもそも日本人とは何者なのか。日本人は外来人なのか、それとも蝦夷(えみし)の子孫なのか。逆に蝦夷(えみし)が日本人の子孫なのか。蝦夷(えみし)と蝦夷(えぞ)との関係はどうなのか。一般に蝦夷についての研究は、推論が先にあって、事実がそれを後追いする傾向があるようで、前提となる推論を巡って激しく論争が行われてきたようです。一般に古代史の研究に関しては、知られている知識の絶対的な不足ということもあって、こうした論争がしばしば行われるようです。しかし、ここで一旦立ち止まって、確実に事実を積み重ねることが必要である、ということが著者の主張のようです。
 蝦夷については意外に分からないことが多く、和人との長い接触の歴史があっただけに、さまざまな偏見によって蝦夷のイメージが歪められていますが、蝦夷をあまり固定的な概念で捉えるのにではなく、歴史の流れの中で見る必要があるようです。「アイヌ民族の成立とは、北海道縄文人の子孫がたどってきたあゆみの中で考えられるもので、超歴史的にアイヌ民族が存在するのではない。……日本民族もまた歴史的な歩みの中で成立したものであって、太古にさかのぼって超歴史的に存在したものではない。このような観点からすれば、古代の蝦夷はアイヌ民族の成立と日本民族の成立の谷間の存在であり、歴史の歯車がわずかにちがった形で噛み合っていたならば、その子孫はアイヌ民族の一員にもなりえた存在であったが、実際には最後に日本民族の一員になった人々ということになるであろう。」


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