2016年1月27日水曜日

「子供たちの大英帝国」を読んで

井野瀬久美恵著 1992年 岩波新書
本書には、「世紀末、フーリガンの登場」というサブタイトルがついているように、19世紀末のイギリスで大きな社会問題となった「フーリガン」なるものを通じて、大英帝国の下層階級の実態を描き出しています。
1980年代に、イギリスのフットボール・ファンのマナーの悪さが、「フーリガン」という悪名とともに世界中で話題になりました。「フーリガン」という言葉の本来の意味ははっきりしませんが、どうやら、19世紀後半に中産階級の価値観に反発した若者たちにつけられた名称のようです。彼らは、まだ大人としては見做されていませんが、ポーターやメッセンジャー・ボーイなどとして小銭を稼ぎ、ミュージック・ホールに繰り出し、当時大流行した自転車で走り回り、人々に危害を加えたりしました。さらに、1888年にフットボールのリーグが結成されると、競技場の観客席で暴力沙汰が頻発しました。中産階級の人々は、このような野蛮な行為は外国からに影響に違いないと考え、ルーツのはっきりしない「フーリガン」という言葉を用いたのだそうです。 
このフーリガン現象について、本書は、ミュージック・ホールとの関連、中産階級と労働者階級との関連、学校教育との関連など、さまざまな側面から説明しています。学校教育に関しては、この頃に義務教育が始まりますが、教員の給与は出来高払い制度で、生徒の出席率と成績に応じて、国庫の補助金が決められていたため、教師は笞をつかって生徒に服従と暗記を強制します。それは、中産階級が、労働者階級の子供たちを、中産階級の価値観の中に囲い込もうとするものでした。こうしたことが、「フーリガン」現象の背景の一つとなっていました。

そして、こうした現象は、大英帝国の衰退とも深く関わっていましたが、この点に関しては議論が多岐にわたるため、ここでは触れません。いずれにしても、フーリガンという一つの現象を通じて、大英帝国衰退期のイギリス社会が描かれており、大変興味深く読むことができました。

0 件のコメント:

コメントを投稿