2016年1月13日水曜日

「リンカーンの三分間」を読んで

ゲリー・ウィルズ著(1992) 北沢栄訳 共同通信社 1995
 本書は、サブタイトル「ゲティスバーグ演説の謎」にもあるように、リンカーンのゲティスバーグでの有名な演説を、さまざまな角度から論じています。18637月に、南北戦争で最大の激戦となったゲティスバーグの戦いが行われ、3日間に及ぶこの戦いで、両軍合わせて5万人近い死傷者がでました。この戦いで両軍ともに大きな打撃を受けましたが、人的資源の豊富な北部は軍隊の再建が可能でしたが、南部には困難であり、南部の敗北は決定的となっていきます。それとともに、翌年に控えたリンカーンの大統領再選の確率も高くなりました。
 その後連邦政府は、この戦場に戦没者を追悼するための公園墓地=霊園を建設し、1119日に行われた奉献式で、リンカーンの有名な演説が行われました。ただ、厳密に言えば、式典では高名な政治家・学者であるエヴァレットが2時間に及ぶ演説を行っており、これが本来のゲティスバーグ演説です。その後リンカーンが3分ほどのスピーチを行っており、2万人もの聴衆にはほとんど聞き取れませんでした。しかし、彼の演説内容が新聞に掲載されると、演説に対する評価がしだいに高まっていき、今日ではこの演説は、アメリカのみならず、世界の民主主義史上最も重要な演説の一つとされています。
この演説は、簡潔かつ抽象的で、この戦争についても奴隷制についてもほとんど触れていません。本書はこの演説を、当時流行していた古典ギリシア復興の観点、霊園というもの背景、エマソンやホーソンらにより普及した超絶主義の観点、思想の革命、文体の革命という観点から、とらえています。個々の点は分かりにくいのですが、アメリカ人はこの演説については子供の時から教えられているため、この種の本としては珍しくベスト・セラーとなったそうです。

リンカーンの演説は、常に憲法にではなく建国の精神に立ち返ろうとします。「ゲティスバーグ演説は独立宣言と同様にアメリカ精神の誇るべき表れとなり、おそらくそれ以上に影響力をもっている。それがわれわれの独立宣言の読み方までも左右するからである。現在、ほとんどの人にとって独立宣言の意味は、憲法自体を投げ捨てることなく修正することによってリンカーンが語った内容と重なっている。それは、精神の軌道修正であり、知的革命である。これによってリンカーンを超えて、初期の解釈へ引き戻そうとする試みはひどく無価値なものになってしまう。」「一つの理念を掲げた単一の国民というゲティスバーグ演説の概念を受け入れることにより、われわれは変わった。それゆえにわれわれは今、この新しいアメリカに生きているのである。」

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