2016年1月16日土曜日

映画「オリヴァー・トゥイスト」を観て

2005年にイギリスで制作された映画で、1837年に出版されたディケンズの同名の小説を映画化したものです。この小説も、過去に映画や舞台で何度も上演されました。この小説は、貧しかったディケンズの少年時代の経験から書かれたもので、彼の初期の作品には、こうした内容のものが多いようです。
映画は、9歳のオリヴァー・トゥイストが養育院から救貧院に連れて行かれるところから始まります。1834年の工場法で9以下の孤児を働かせることが禁止されましたので、孤児は9歳までは養育院で育てれ、9歳になったら救貧院に移して働かせます。同じ1834年に救貧法は最悪の改革が行われましたので、救貧院における待遇も最悪となりました。10歳の時オリヴァーは救貧院を脱走し、7日間歩いてロンドンに行きますが、そこで掏りの親玉に掏りの練習をさせられます。その後色々あって、善意ある人々に助けられ、最後は幸せになったという話です。要するに、正しい心をもっていれば、必ず救われるという話です、
ディケンズの小説は、ストーリーが単純で、善悪がはっきりしており、楽天主義と理想主義を基本とし、ほとんどハッピー・エンドに終わります。そのため、本書は「クリスマス・キャロル」などとともに、児童書としても読まれてきました。ただ、彼の小説の特色は、個性的な脇役を生き生きと描くことで、主人公を浮き上がらせるところにあります。映画でも、救貧院の監督官、意地悪な先輩、掏りの親玉など個性的な人物たちが、オリヴァーの不幸と善良さを際立たせていました。
ディケンズは、常に社会制度の欠陥と、それを受け入れる社会的風潮を問題とします。19世紀前半のイギリスでは、資本主義が猛烈に発展し、それと同時に社会矛盾も耐え難いほど拡大していました。労働者の長時間・低賃金労働、女性・児童の長時間労働、貧困者の増大、犯罪の多発、都市の衛生問題などです。映画では、こうした社会の底辺に生きる人々、役人たちの傍若無人なふるまいなどが描かれますが、都市が妙に綺麗でした。この時代のロンドンは、ほとんど掃き溜めといっていいほど不衛生な町でしたが、道路にはゴミ一つ落ちていませんでした。これは監督のアイロニーなのかも知れません。映画は、あり得ない程ハッピー・エンドで、美しい物語でしたが、これは「綺麗ごと」だという監督の意志表示なのかもしれません。
この映画の監督ポランスキーは、ポーランドのユダヤ人で、ナチスによる迫害を逃れて辛酸をなめた人物でした。その経験もあって、彼は「戦場のピアニスト」を制作し、高い評価を得ました。一方、彼は私生活でいろいろ話題の多い人物です。彼は女優シャロン・ステートと結婚しますが、翌年彼女がカルト集団に惨殺されるという悲劇に見舞われます。その後、アメリカで児童性愛の疑いで逮捕され、有罪となりますが、保釈中にヨーロッパに逃亡してしまいます。こんな彼が、「オリヴァー・ツイスト」のような単純で美しい映画を、素直に造るとは想像できません。

なお彼は、このブログでも紹介したシェイクスピアの「マクベス」を制作していますが、かなり血みどろの映画のようです。(「映画でシェイクスピアを観て マクベス」http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/10/blog-post_17.html)

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