2020年2月15日土曜日

映画「たたら侍」を観て

2017年に公開された映画で、戦国時代における出雲のたたら村の人々の生き様を描くとともに、鋼の製作過程についても詳しく解説しています。なお、鉄の歴史については、このブログの「グローバル・ヒストリー 第5章 文字・鉄・貨幣の歴史 3.鉄の歴史-歴史の流れの加速化(http://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/01/5.html)」を参照して下さい。
 日本に鉄器が輸入されたのは弥生時代中期、製鉄が始まったのは5世紀から6世紀と考えられています。出雲は、朝鮮半島に近いこと、良質の砂鉄を産すること、そして炭を作るための木材資源が豊富なこと、こうした条件がそろって製鉄業を発展させました。とはいえ鋼を生産するには高い技術が必要で、それぞれの地域で独自の技術が発展していきます。その技術の一つが、空気を送り込むための「ふいご」の改良で、出雲では「たたら」と呼ばれます。「たたら」は、アニメ「もののけ姫」にも登場し、この映画でも一瞬だけ登場しますが、空気を送るには絶妙のタイミングが必要なようです。
 「たたら」は本来「ふいご」のことですが、鋼を製造する全工程が「たたら」と呼ばれ、さらに鋼製造を生業とする村は「たたら村」と呼ばれるようになります。製鉄技術の発展には非常に長い年月が必要で、その技術は村で代々引き継がれていきます。たたら村での製鉄作業のすべてを監督する者は村下(むらげ)と呼ばれ、この映画では村下を継ぐことになっていた伍介という青年が、たたら村はどのようにあるべきかと悩む姿が描かれています。
 時代は戦国時代、織田信長の時代ですから16世紀後半で、たたら村もこうした動乱に巻き込まれていきます。なにしろ優れた鋼を製造できるということは、それだけで戦略的に重要であり、さまざまな勢力がたたら村を狙っています。しかも当時は身分制度が流動的でしたので、たたら村は武士として武装し、自らの手で村を守るか、雑音に左右されずに優れた鋼を製造するか、という選択を迫られます。伍介は逡巡の末、製鉄で生きることを決意します。17世紀になるとたたら工法には技術革新があり、18世紀には完成の域に達したそうです。

 しかし、皮肉にもこの18世紀にヨーロッパは製鉄革命を迎え、明治維新以降はたたら村での製鉄は衰退していきますが、それでもたたら村の鋼は品質が優れており、今でも日本刀の製作などに一定の需要があるようです。映画は、何を主張しているのかよく分かりませんでしたが、それでも16世紀のたたら村をよく再現しており、それなりに興味深く観ることができました。ただ、公開直後に俳優の一人が麻薬所持で逮捕されたこともあり、興行成績は惨憺たるものだったようです。

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