2015年3月18日水曜日

「スペイン黄金時代」を読む

著者:林屋永吉 小林一宏 佐々木孝 清水範男 大高保二郎
1992年 日本放送出版協会

スペイン史に関する本は、市民戦争以外では非常に少なく、あっても読みづらい本が多いのですが、本書はNHK文化講演の連続公演を本にしたものなので、大変読みやすい内容となっています。本書は、歴史・思想・文学・芸術という4つのテーマに分けて書かれています。











「歴史 近代スペインの誕生」では、まず「黄金時代」とは何時から何時までか、という問題が取り上げられます。諸説あるようですが、最も広く解釈すれば、1492年のコロンブスの大西洋横断から1648年のウェストファリア条約までということのようです。スペイン黄金時代の特色は、強力な貴族の力を抑えるため、教会を国家機構に取り込んだことにあるとされます。もう一つは、対抗宗教改革があります。スペインはキリスト教ヨーロッパへの復帰を願ってイスラーム教徒と戦い、ついにグラナダを陥落させたのに、まもなくヨーロッパで宗教改革が起き、ヨーロッパ・キリスト教は分裂してしまいました。スペインにとってプロテスタントは裏切り者であり、宗教改革は黄金時代のスペインの行動に決定的な影響を与えとのことです。
「思想 スペイン的「生」の思想」では、ウナムノやオルテガの思想を基に、「スペインとは何か」が問われています。スペインでは、19世紀の末以来「スペインとは何か」という問題が深刻に問われ続けてきましたが、著者は、スペイン的なものについて、「それらすべての姿勢が「黄金時代」に形成された、ある独特な「生」の捉え方に発している」と述べます。非常に複雑な内容なので詳細を省きますが、要するにスペイン的な「生」とは、本来スペインはキリスト教・イスラーム教・ユダヤ教の混血であるにも関わらず、黄金時代に純血主義に走ったことから生まれてきたものだ、ということのようです。
「文学 文学がおりなす錯綜の世界」では、この時代のスペインの文学は、「高邁さ」と「土臭さ」から成っており、セルバンテスの「ドン・キホーテ」は、それらを象徴的に統合する作品である、とします。

 「芸術 王家の芸術擁護」では、まずエスコリアルについて語られます。エスコリアルは、宮殿付修道院というべきもので、暗くて単調な建築物ですが、内部には千点を超える絵画が飾られており、これらの絵画が描かれた背景が説明されます。またその後のスペインの美術史の説明も、大変興味深いものでした。

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