2014年8月5日火曜日

世界歴史の旅 古代アメリカ文明 アステカ・マヤ・インカ

増田義郎・青山和夫 山川出版社 2010
 著者の一人増田義郎氏は、日本における古代アメリカ文明研究の開拓者です。思い返せば、私は古代アメリカ文明をほとんど増田氏一人から学んだような気がします。私のように広範囲にわたって学習を必要とするものは、ある時期にある分野を集中的に学習すると、再びその分野に戻ってくるのに何十年もかかります。あるいは戻ってこれない可能性もあります。そして今、私の書棚にある古代アメリカ文明に関する未読の本を読もうとした時、その中で一番新しいのが本書でした。2010年においても、まだ増田氏が執筆活動を続けているのに驚きました。また何年か前に「太平洋―開かれた海の歴史」(増田義郎、集英社新書、2004)を読みましたが、その関心の広さに驚かされました。
 増田氏の著書は、平易に書かれて読みやすいというだけではなく、著者自身が古代アメリカ文明に興奮し、面白がって書いているため、読者を引き込んでいく力があるように思えます。増田氏は、「世界四大文明」という捉え方に義憤を覚え、メソアメリカ文明とアンデス文明を加えて、「世界六大文明」というべきだと主張しています。増田氏のこの気概が、氏の著書を面白くしているように思います。
 古代アメリカ文明は、紀元前2000年頃には農耕文明を独自に生み出したわけですから、六大文明としてもよいように思います。古代アメリカ文明を四大文明に加えない理由として、一部を除いて文字が普及しなかったこと、鉄を知らなかったこと、車輪をしらなかったことなどがあげられますが、逆にこれらの条件なしで、あれ程の文明が生まれたことに驚嘆します。また、古代アメリカ文明は、16世紀までまったく孤立して存在していたため、今日の文明の発展に貢献していない、まったく異質な文明という意識があるかもしれません。しかし、今日われわれが食べている食物の6割が中南米原産であり、それは中南米の人々が何千年もかけて開拓した食物であり、したがって中南米の文明はわれわれの食生活を支配しているという事実を知らねばなりません。
 古代アメリカ文明については謎が多く、まだまだ未解明な部分が多いようです。オリエント文明やインダス文明について、30年くらい勉強していなくても、それ程研究内容は変化していないと思いますが、古代アメリカ文明については、30年もたてばかなり新しい知識が追加され、見解そのものも変化している可能性があります。また、オリエント文明に関しては、何か新しい発見があるとマスコミでも取り上げられますが、古代アメリカ文明については、あまり取り上げられないため、われわれも知らないままに終わってしまいます。本書自体は、遺跡の観光案内のために書かれた本ですので、あまり立ち入った説明は在りませんでした。
われわれは、古代文明というものを四大文明の基準で考えることに慣れすぎていて、古代アメリカ文明について学ぶたびに驚き、発想の転換を迫られます。われわれは、「四大文明」という発想から抜け出すためにも、古代アメリカ文明を学ばなければならないと思います。中南米に関して、まだ読んでいない本が20冊ほど書棚にあります。どれもかなり古い本ではありますが、興味を抱いた本があれば、また取り上げたいと思います。


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