2019年11月16日土曜日

ラトビア映画「バルト・キングダム」を観て


2018年にイギリスとラトビアの合作で制作された映画で、まだキリスト教を受容していなかった13世紀のラトビアを扱っています。邦題の「バルト・キングダム」は意味不明ですが、英題の「異教の王」はこのことを意味しています。原題は「ナメイスの指輪」で、伝説の王ナメイスがキリスト教徒の非道な侵略を食い止めたという話で、ある程度史実に基づいているようです。銀でできた「ナメイスの指輪」はラトビア王の象徴だそうで、映画では、この指輪の争奪が描かれます。今日では、現地の伝統的な装身具で、字幕の説明によれば身につけた人の「誠意と勇気、自由」を表すとされ、土産物として売られているそうです。
バルト三国の地域は、ヨーロッパでは最もキリスト教の布教が遅れ、13世紀にはヨーロッパで最後に残った異教の地といわれました。この頃、十字軍遠征にも関わったドイツ騎士団が、新しい領土を求め、異教徒の改宗を旗印に北方十字軍を開始しました。ドイツ騎士団はバルト海沿岸を北上してプロイセンを征服し、さらに北上してバルト三国地域に侵入します。これが、この映画の背景です。ラトビア人は勇猛で知られていましたが、政治的結束もなく、武器も十字軍に比べたら前近代で、それでも君主ナメイスは人々を統合し、術策を駆使して十字軍に勝利します。映画で描かれているのはこの過程で、確かに一時的に十字軍の侵入を撃退できたとしても、遠からずこの地域もキリスト教化されていく運命にあります。
バルト三国に関する映画は非常に少なく、以前にリトアニアの映画「ファイヤーハート 怒れる戦士」を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2017/10/blog-post_7.html)を紹介しましたが、この映画は19世紀後半扱ったもので、13世紀のラトビアを扱った映画は、私にとっては大変珍しく、大変興味深い映画でした。ただ、映画のラトビア人はまるでヴァイキングのように見えたし、また多量のナメイスの指輪を作って民衆に配り、指輪は民衆のもの、ラトビア人は自由であると叫んだりしますが、本当にこんなことがあったのでしょうか。
 いずれにしても、バルト三国は、一時リトアニアがポーランドと連合して大帝国を樹立しますが、それ以外は常に周辺の大国の支配下におかれていました。ロシア革命後の1918年に三国は独立しますが、1941年にドイツに占領され、戦後はソ連邦に編入されます。そしてソ連邦が崩壊した後、1991年にバルト三国は独立を達成します。ヨーロッパの片隅の、小さくて歴史の浅い国について知識をえることは、大切なことだと思います。なぜなら、これもまたヨーロッパの、さらに世界の一部だからです。












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