2018年8月22日水曜日

「インカに眠る氷の少女」を観て


ヨハン・ラインハルト著、2005年、畔上司訳、二見書房、2007
著者は高地考古学者で、アンデス山脈の高地で発掘を行い、凍結された少女のミイラを発見しました。インカには、高地に少女を生贄にするという風習があり、そのような少女は、幼いころから生贄になるべく者として特別に育てられたようです。エジプトのミイラは、内臓を取り出して骨と皮だけにし、防腐剤を大量に用いて人工的にミイラをつくりますが、インカては温度の低い高地の永久凍土で保管されましたので、まるで生きているようであり、眠るような安らかな顔で保存されていました。
 本書は、このミイラ発掘過程を描きます。海抜6000メートル以上の高地で発掘を続けることは容易なことではありません。高山病をもちろんのこと、大量の荷物を運びあげ、荷物やミイラを運び下す作業は大変です。もっと大変なのは、下におりてから起きます。ミイラの所有権はどこにあるのか、だれに優先的研究権があるのか、マスコミとの対応、次の発掘のための資金の調達などです。こうした雑事に追われる中で、次の発掘に向かって行くことになります。結局、地上より6000メートルの山上のほうが、はるかに心が安らぐようです。
 ところで、我々は5000年前のエジプトのミイラを発掘することには何の抵抗も感じませんが、わずか500年前のミイラを発掘し、かつ展示することには強い抵抗を感じます。ましてや、そのミイラが生きているように見えるほど保存状態が良いと、なおさらです。我々に墓を発掘する権利があるのでしょうか。これが500年前だから問題なのでしょうか、1000年前なら問題はないのでしょうか。なかなか難しい問題です。
 筆者も、この点について少し気にしています。そして彼は、放置すれば遠からず盗掘されるので、今のうちに発掘すべきだと主張しています。それはそうかも知れませんが、かつて大英博物館が、世界中の歴史遺物を蛮人から守るため、すべて大英博物館に保存すべきという主張と似ていますが、著者の発想もこれに似ているように思います。いずれにしても少女は、自分の遺体がこのようなことになるとは、想像もしなかったでしょう。

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