2018年3月10日土曜日

映画「ラスト・キング」を観て


2016年にノルウェーで制作された映画で、13世紀における史実に基づいているそうです。ノルウェーのフィヨルド地域は緯度が高い割に、暖流の影響で不凍港が多く、それを拠点に、かつてノルウェー人はヴァイキングとしてヨーロッパで恐れられましたが、しかし、このころになると、安定した農耕に転じる人々が多くなりました。しかし国土のほとんどが山岳地帯で、平地がほとんどなく、冬は雪に覆われているため、移動手段はスキーやソリが多く用いられますが、それがこの映画の見せ場の一つとなります。
 当時のノルウェーは、王位継承を争う、国王と貴族との争いなどが続いていましたが、12世紀末のスヴェレ王の時代に王権が強化されました。そして1202年に息子のホーコン3世が王位を継ぎますが、1204年に暗殺され、ギスレ伯爵という貴族が実権を握ります。ところが、この年ホーコン3世が他所で愛した女性インガが彼の男子を産みます。彼こそが国王の正統な後継者であり、王権の安定を望む人々が王子を王宮に連れて行こうとし、伯爵たちがこれを阻もうとする、という物語です。
 一応史実に基づいた話だそうですが、物語としてはどこにでもあるような話です。この映画の見せ場はスキーにあると思います。何しろ赤ちゃんをおんぶし、スキーに乗ったまま弓を射、刀を振り回し、クロスカントリーあり、ジャンプあり、回転あり、滑降ありですから、ノルディック複合とアルペン複合を同時にやっているようなもので、映画のかなりの部分がこうした場面でした。多くの危機を克服した後、結局、王子は宮廷に届けられ、ハッピー・エンドとなります。かつて海に生きたヴァイキングが、いつのまにかスキーヤーになっていました。いずれにしても、スキーを用いた戦闘場面など、初めて観ました。
 王子はまだ生まれたばかりですので、当面は側近が摂政として統治し、1217年に王子が13歳になったとき、ホーコン4世として国王に即位します。半世紀近くに及ぶホーコン4世の時代はノルウェーの全盛期で、社会も安定しますが、彼の死後しだいに衰退に向かい、14世紀末にデンマークに併合されて以降、20世紀になるまで独立国家となることはありませんでした。ホーコン4世は最後の君主ではありませんでしたが、繁栄したノルウェーの最後の君主だった、ということなのでしょう。タイトルの「The Last King」というのは英語版のタイトルで、原題は「ビルケバイネル」で、王に仕える戦士のことです。この映画の主人公は王ではなく、ビルケバイネルで、やがて彼らはホーコン4世の下で騎士となっていきます。
 北欧に関する映画は非常に少ないのですが、それでも、これまでに8本の映画を観ています。特に、「エスケープ 暗黒の狩人と逃亡者」は、ホーコン4世後の混乱したノルウェーを描いています。
映画で西欧中世を観て(1)  「ベオウルフ」 「バイキング」
映画で西欧中世を観て(4)  「アーン 鋼の騎士団」 スウェーデンのテンプル騎士団
映画で西欧中世を観て(7)  「エスケープ 暗黒の狩人と逃亡者」 14世紀ノルウェー
映画「ロイヤル・アフェア」を観て 近世デンマーク
映画で三人の女王を観る 「クリスチナ女王」近世スウェーデン
映画「ファイヤーハート 怒れる戦士」を観て リトアニア
映画「四月の涙」を観て フィンランド




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