2017年2月15日水曜日

「歴史を変えた昆虫たち」を読んで

JL・クラウズリー・トンプソン著、1979年、小西正泰訳、思索社(1982)
 本書は、昆虫、中でも昆虫を媒介とする疫病について述べています。疫病については、すでにかなり前に、ハンス・ジンサー「ネズミ・シラミ・文明」、マクニール「疫病と世界史」などを読んでおり、またこのブログの「グローバル・ヒストリー 第14章 1415世紀-危機の時代 1.疫病と世界史」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/01/141415.html)でも、疫病が歴史に与えた影響を述べています。もちろん、昆虫の中には、イナゴの大群のように、疫病を媒介するだけではなく、直接人間に被害を与える場合もあります。イナゴの被害については、このブログの「映画「大地」を観て」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html)を参照して下さい。また、逆に蚕のように、中国を一大帝国にした昆虫もいるわけです。
 本書は、太古の昔から現代に至るまで、昆虫が人間の歴史に及ぼした影響を、幅広くかつ詳細に述べています。特に、戦争では、不衛生や食糧事情の悪化により疫病が蔓延しやすく、疫病が戦争の勝敗を決定するようなことは、しばしば起きます。ただ、本書は全体に昆虫・疫病の与えた影響を過大に評価し過ぎている傾向があります。著者自身も、しばしば「それだけが原因ではないにしても……」と述べてはいますが、読んでいると、あたかも疫病がすべての決定要因であるかのような錯覚を受けます。それ程、疫病は歴史に大きな影響を与えてきた、ということではありますが。
ただ、微生物の側から見ると、宿主が死ねば微生物も死ぬわけですから、微生物にとっては命がけの寄宿ということになります。また、微生物はそれ自体では移動しませんので、本来特定の疫病は特定の地域に限られ、その地域の生物はある程度免疫をもっているわけですが、保菌した昆虫や動物や人間が移動すると、宿主とともに微生物も移動するわけです。地球上には多くの生物が存在し、微生物もその中に含まれているわけですから、本来共存しなければならないのでしょうが、その共存を破壊しているのは人なのではないでしょうか。何か分けの分からないことを書いていますが、この本を読んでいて、悪いのは微生物ではなく人間なのではないか、と考えるようになりました。



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