2016年3月12日土曜日

映画「80日間世界一周」を観て

1956年にアメリカで制作された冒険映画で、フランスのヴェルヌが1872年に発表した小説を映画化したものです。ヴェルヌは、「SFの父」とも呼ばれる作家で、「気球に乗って五週間」「月世界旅行」「海底二万里」など多数の作品が残こしました。
















「月世界旅行」については、すでに1902年に映画化されており、この映画の冒頭で、その一部が紹介されています。南北戦争中のアメリカで、巨大な大砲によって月に向けて、人間の乗った弾丸を撃ち込むという話で、写真は弾丸が月に命中した場面です。考えて見れば、今日のロケットも弾丸のようなものだし、帰りはパラシュートでカプセルだけ落ちてくるわけですから、今日もヴェルヌの空想と大して変わらないように思えます。
80日間世界一周」では、イギリス人資産家フィリアス・フォッグが、社交クラブで80日間で世界を一周してみせると主張し、そのために全資産を賭けます。フォッグは極めて厳格で、特に時間に関しては1分の狂いも許しません。お供は、雇ったばかりのパスパトゥで、彼はいいかげんな性格で、特に女好きのためいつも騒動を起こしますが、サーカス団など色々な職業を転々としていたため、身軽で器用な人物でした。こうして、1872年、この二人の珍妙な旅が始まる分けですが、それはドン・キホーテとサンチョ・パンサの旅のようでした。

この時代の交通事情は、劇的に変化していました。まず、蒸気船の普及により海上航海が風に左右されなくなり、さらに1868年にスエズ運河とアメリカ大陸横断鉄道が開通し、世界の距離は一気に短縮されます。なお、交通機関の発達については、このブログの「グローバル・ヒストリー 第26章 自由貿易帝国主義と世界の一体化」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.jp/2014/01/26.html)を参照し下さい。また、1871年にトーマス・クック社という旅行会社が設立され、翌年には西回りでの世界一周の団体旅行を始めました。ヴェルヌがこの小説を書いたのには、こうした背景があった分けです。














映画では、フォッグは東廻りでの世界一周を試みます。まずドーバー海峡を渡ってパリへ行き、そこから列車でマルセイユに行く予定でしたが、列車が雪崩で不通になってしまったため、熱気球で行くことにしました。熱気球は、すでに18世紀の末に有人飛行(浮上)に成功しており、その後は金持の趣味として使用されていました。二人は、この熱気球を使って、多少遠回りしましたが、マルセイユに到達し、船でスエズ運河を越えて、インドのボンベイ(ムンバイ)に達します。そこから列車でカルカッタ(コルカタ)に向かいます。途中線路上で像がのんびり歩いていて停車したり、線路がカルカッタの80キロ手前までしか敷設せれておらず、残りを象で移動したりします。この間、インドの風習で殉死を強制されそうになっていた若い女性(アウーダ姫)を助け、彼女も連れて行くことになり、これで三人旅となります。
一方、フォッグがロンドンを立つ前に、ロンドンで銀行強盗事件が起き、フォッグを犯人と考えた刑事が、フォッグたちの後をつけていきますので、これで四人旅となりました。その後、一行は船で香港を経て日本の横浜に立ち寄り、そこから船でアメリカのサンフランシスコに向かいます。当時のサンフランシスコは、ゴールド・ラッシュで人が集まり、無秩序で活気ある町に成長していました。サンフランシスコから列車でニューヨークに向かい、途中で先住民の襲撃を受けたりしますが、なんとかニューヨークに到着し、その後色々あって期日前にイギリスに到着します。しかし、到着直後にフォッグは銀行強盗犯として逮捕されてしまい、その後釈放されますが、もはや約束の時間までに約束の場所に行けなくなり、彼は賭けに負けて破産することになります。ところが、彼は東から日付変更線を通っているため、1日儲けたことに気づき、結局賭けは彼の勝利ということになりました。
 なお、ウイキペディアに掲載されていたフォッグの予定表を下に転載しておきます。
地名
手段
滞在期間
合計
ロンドン/スエズ
鉄道・蒸気船
7(日)
スエズ/ボンベイ
蒸気船
13
20(日)
ボンベイ/カルカッタ
鉄道
3
23
カルカッタ/香港
蒸気船
13
36
香港/横浜
蒸気船
6
42
横浜/サンフランシスコ
蒸気船
22
64
サンフランシスコ/ニューヨーク
鉄道
7
71
ニューヨーク/ロンドン
蒸気船・鉄道
9
80

 当時、大英帝国は全盛期を迎えており、この物語は世界中を我が物顔で闊歩するイギリス人の姿を描いています。そして、この映画は、アメリカが世界の覇者となった時代に制作されました。したがって、イギリス人フォッグをアメリカ人に置き換えても良いわけです。ただ、この映画は非常に丁寧に制作されており、堅苦しいことを考えなくても、十分に楽しめる映画でした。

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