2019年6月5日水曜日

ポーランド映画「国家の女 リトルローズ」を観て

2010年にポーランドで制作された映画で、社会主義体制の下での監視体制とユダヤ人問題を扱っています。
ポーランドの歴史は非常に複雑ですので、ここでは触れません。このブログの「映画で近世東欧を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2015/10/blog-post_10.html)、「第5章 第二次世界大戦後の国際関係」を(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/06/5.html)、「映画でポーランド現代史を観て」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2016/10/blog-post_8.html)を参照して下さい。
 ポーランドにおけるユダヤ人問題についても、よく分かりません。もともと近世に多くのユダヤ人がポーランドに入植し、19世紀には帝政ロシアの支配下で迫害され、ナチス・ドイツの支配時代にはアウシュヴィッツ収容所が建設されました。この収容所はドイツが建設したものですが、当時ポーランド人もユダヤ人の迫害に手を貸しました。ただしポーランド人の名誉のためにも言っておきますが、同時に多くのキリスト教のポーランド人がユダヤ人を助け、匿ったのも事実です。彼らは、ナチス・ドイツ支配下のポーランドで地下組織を結成してユダヤ人を救済したのです。ポーランドのユダヤ人については、このブログの「映画でヒトラーを観て 戦火の奇跡」(http://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/02/blog-post_24.html)を参照して下さい。
 第二次世界大戦後、ドイツでは反ユダヤ主義は排除されますが、ポーランドでは、ポーランドを占領したスターリンが反ユダヤ主義政策をとっていたこともあって、反ユダヤ主義が強く生き残りました。これまでに私は、反ユダヤ主義に関する本を多数読み、映画も多数観ましたが、ヨーロッパに強く根付いている反ユダヤ主義については、どうしても理解することができません。結局、第二次世界大戦後、多くのユダヤ人は新たに建設されたイスラエルに移住しました。
 中東ではユダヤ人の国イスラエルとパレスチナ人・アラブ諸国が対立し、イスラエルをアメリカが支援し、ソ連がパレスチナ人・アラブ諸国を支援したため、中東紛争は米ソ冷戦に巻き込まれることになります。1967年に第3次中戦争が勃発した時、ポーランド政府は当然ソ連とともにイスラエルを批判し、国内でも反シオニズム運動を弾圧します。こうした中で、1968年に三月事件と呼ばれる反シオニズム運動が起き、これをきっかけに15千人のユダヤ人が国外に亡命しました。その後もユダヤ人の人口は減り続け、かつて東欧で最大のユダヤ人人口を抱えたポーランドでは、今やユダヤ人人口は千人未満だとされます。このような有為な人材の流出が、ポーランドの発展に計り知れないほどの損失を与えたことは、明白です。
 この映画を理解するには、こうした時代背景を知っている必要があります。国家保安部のロマンはユダヤ人の小説家アダムを反体制活動家の有力者とみて、恋人のカミラをスパイとしてアダムの動静を探らせていました。彼女のスパイとしてのコードネームがリトルローズです。カミラは優秀なスパイで、多くの情報をロマンにもたらしますが、一方で彼女はアダムを愛するようになり、彼と結婚しようとします。嫉妬したロマンは、カミラがスパイであることをアダムに告げます。こうした中で三月事件が起き、その混乱の中でアダムは自殺し、さらに実はロマンがユダヤ人であることが判明し、ロマンはポーランドを去っていきます。
この映画はポーランドにおける根深いユダヤ人問題を描くと同時に、東ドイツなどと同様に、当時のポーランドが厳しい監視社会であったことを描いています。この1968年にチェコスロヴァキアで「プラハの春」と呼ばれる自由化運動が起きており、これにソ連軍が介入し、ポーランド軍もこれに加わりました。ポーランドの自由化には、まだ相当時間が必要でした。なお、東ドイツの監視社会については、「映画で東ドイツを観る」(https://sekaisi-syoyou.blogspot.com/2014/03/blog-post.html)を参照して下さい。

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